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種苗法改正案が衆議院を通過したっていう話

種苗法による海外流出の防止について


種苗法改正案、衆院通過 ブランド果樹の保護強化へ(Yahooニュース|時事通信 2020.11.19)
ブランド果樹など農作物新品種の海外流出防止を目的とした種苗法改正案が19日の衆院本会議で、賛成多数で可決された。
参院審議を経て、開会中の臨時国会で成立する見込み。

本当に不思議でしょうがないのですけど,なぜ海外流出防止のために「種苗法」を改正する必要があるんでしょうかね.
どう考えても品種登録をさせる外交努力しかないんですけどね.

それに,海外流出を防ぎたいだけなのに,なぜ「自家増殖」に制限を設ける改正と一緒にやるんでしょうかね.
これが懸念材料になっているんだから,まずは「海外流出させないための方策」だけを盛り込めばいいのに.


これを「学校のいじめ問題」への対策として例えると以下のようになります.

学校での「いじめ」を防止するため,
(1)校内でいじめが発見されたら,対策会議を開いて被害者と加害者の調査をする
(2)これまでの学級制を廃止する
とかいう指示を出すようなものです.

(1)については分かります.
でも,なぜに(2)も一緒に入れてくるのか?

これについて,
「学校に学級制があるから,いじめが無くならないんだよ」
って言い出す人もいるけど,それにしても話がおかしいだろってこと.
学級制を廃止したところで,いじめはなくなりませんから.

むしろ,学校から学級制を廃止したくて,今回の指示を出したんじゃないのか? って疑いたくなるものです.

種苗法改正っていうのは,これと同じことをしているのです.
「海外流出を防ぎたいから,国内で登録品種の自家増殖を禁止する」
って,意味がわかりません.

国内での自家増殖を禁止したって,それに関係なく海外に持ち出す人はいるでしょう.

え?
具体的にどんな手段で海外流出するのか例示してほしいって?
そりゃ簡単です.
まず,外国の悪党が,国内で登録品種を買いますよね.
種苗は普通に買えますから.
で,それをひそかに海外に持ち出すんです.
で,あとは,とんずらをこく.
以上,簡単でしょ?


海外流出を防ぎたい.
それは種苗法改正に反対している人も,「反対」などしていません.
海外流出を企む奴に罰則を設けることについても,反対派は反対していません.
どうぞどうぞ,やってください.

でも問題は,なぜその方策の中に「国内の自家増殖の制限」が組み込まれるのか? ってことです.

先日も記事にしましたけど,この件で一躍有名になった女性タレント・柴咲コウが言っているのも,まさにこのことです.
海外流出は防いでほしい,でも,その方策としてなぜ自家増殖の制限が入っているの?って.


ネットで本件の議論を検索していたら,反対派の人が書いた漫画がありました.
それこそ,フリーに「自家増殖」していいそうなので,ここに貼っときます.


改正賛成派って,反対派の論理がまったく理解できてないですよね


このニュースにまつわる議論を見ていると,改正賛成派の意見というのは,
「この改正案は,海外流出を防ぐために賢く偉い人が考えた案なのだから,そのままフルスペックで通すことが大事なんだ」
と考えているフシがあります.

だから,
「そんな改正案に反対している人は,きっと海外流出を企む奴らであり,国益を損なう行為を考えている人なんだ」
と捉えているんじゃないでしょうか.

おめでたいですよね.
っていうか,賛成派の人って,一体誰と,何と戦っているんですか?
両派の議論の噛み合わなさっぷりが凄いなぁって思います.

何度も言うけど,この種苗法改正に反対している人は,その中身に反対しているのであって,「種苗の海外流出防止」とか「種苗開発者の権利保護」に反対しているわけではありません.

実際,これに反対している人っているんですか?
私は知りません.

中身が外資企業に有利になっていたり,他国からの農業乗っ取りに対してガバガバだから,もっと別の改正案にするべきだと言っているだけです.

もっとダイレクトに言えば,
「海外流出を囮にして,権利者ビジネスを取り込む布石にしたいんだろ」
ってことです.



賛成派がよく使う「切り札ロジック」も,それってどうなの?


もう一つ,ついでに書いておきたいことがあります.

種苗法改正,そのなかでも「種苗開発者の知的財産権の保護」についてです.
いわゆる,「登録品種の自家増殖禁止,または開発者の承諾が必要」というもの.

「これを禁止したって,海外流出には効果がないよ」って言われてるやつですね.

これについて賛成派の人は,
「種苗を開発した人の労力や権利は保護されるべきだ.それは商品開発をはじめ,文学や音楽,映画や絵画などにも同じことが言える」
といったロジックが展開されます.

つまり,海外流出云々以前に,そもそも,登録品種を育てたいなら,開発者にそれなりのペイを支払うべきだっていう理屈ですね.
むしろ,そのための法整備として種苗法改正があるんだ,という主張が展開されます.

でも,それってどうなの? っていう話です.

農家である私としては,現行法の方がしっくりくるんです.
現行法では,農家の人が登録品種の種苗を購入して栽培・収穫したら,翌年からは「自家増殖」が認められています.

この場合,登録品種に対する開発者へのペイは,最初の種苗購入の時点で終了しています.
で,あとはその種苗をどのように利用しようが,農家の自由ということ.

考えてみれば,これって,工業製品とか,音楽や画像・映像なんかでも同じことです.
自分でアレンジや加工して使いたいという場合,その権利を購入します.
で,あとはその製品だとか音楽だとかを,改造したりアレンジして使うわけです.

例えば航空自衛隊のF-15イーグル戦闘機は,日本がアメリカからライセンスをもらって整備して飛ばしています.
これを,離陸ごとに毎回許可とってたら話になりません.

農業も一緒で,一番最初に持ってくる際に,許可をとったりお金を支払うのは当然としても,そこから先,栽培して収穫できた時点で,もうそれはこの人のものになります.

これはちょうど,ドリー・パートンの名曲「オールウェイズ・ラブ・ユー」を,ホイットニー・ヒューストンがカバーしたら,もはやそれはホイットニー・ヒューストンの「オールウェイズ・ラブ・ユー」になるのと一緒です.
ホイットニーとしては,これを歌うたびにドリーから許可をとる必要はないでしょう.
しかし,ドリー・パートンがそのオリジナルであることは失われない,ということと一緒です.


どうしてもそこに制限をかけたいのであれば,開発者に登録品種の扱われ方を決めさせればいいんです.
例えば,ウィキペディアの「サクラ」のページに使われているソメイヨシノの画像がこちらですが....


その画像ファイルのページには,以下のような「ライセンス」の表記があります.


つまり,この画像の作成者が,この画像をどのように扱ってもらいたいか指定しておくわけです.


これを登録品種の種苗にも適用すればいいわけでしょ?
開発者が,
「この種苗は自由に使ってください.ただし,名前を変えて売ってはいけません」
とか,
「自家増殖OKですが,販売目的で栽培してはいけません.販売する場合は私の承諾を得てください」
などというライセンスを指定しておくのです.

そういう慎重な議論をせず,いきなり「一律禁止」にしたがるのは,何か裏があると思われても仕方がないのではないでしょうか.

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