2015年12月23日水曜日

そう言えば,自転車取り締まり強化の影響はどうなった?

今年の6月1日から自転車運転の取り締まりが強化されていました.
その時の動きはコチラを参照→警察庁:自転車運転者講習制度(PDF)

なのでその影響について記事にしたこともあります.
自転車の取り締まり強化後,一週間
そこでの話を要約すれば,
「道路整備をせずにルールだけ強化しても無意味だし,むしろ,自動車・バイク側の意識が変わっていないのに自転車を車道に出すよう指示したら,逆に重大な死亡事故が増えるのではないか?」
ということを書いておりました.

先日12月21日に,平成27年11月末時点での交通事故統計が出たこともありますので,ここらへんで一度自転車の取り締まり強化の影響を見てみたいと思います.
その統計資料があるページはこちら→警察庁:交通事故統計(平成27年11月末)

この11月末時点での統計を見てみますと,やっぱり6月の記事で気にしていた結果となっていましたので図表を見てもらいながら説明していきます.

まずは全体像から.
以下は今年の11月末時点での各月の交通事故統計です.


自転車取り締まりを強化した6月以降を青字にしています.
これは交通事故全体の統計ですので,ここから自転車事故のことを推測することは難しいことを差し引いて見ることになるのですけど.
上図を見て真っ先に目に留まるのは「6月の死者数の大幅低下」であり,続く「8月の死者数の大幅増加」ですね.なんだか6月に始まった取り締まり強化の影響のようにも思えます.

ですが,実は死者数が前年同期比で±30くらいするのは通常の揺れ幅のようで,例えば昨年の交通事故統計から作った以下の図を見ても分かるように(青字のところが26年度データと,その前年同期比),


これは特別な増減ではないことがうかがえます.
逆に,今年は交通事故における死者数は全体的には前年と同じように推移している年と言えるでしょう.

さて,では今年の死亡事故の内訳ですが,以下のようになっています.


「状態別」というのは,死亡した人が「◯◯している状態の時の」という意味です.
このデータはここ数年ずっと変化ありません.死者数のほとんどが自動車乗車中か歩行中かなのです.

今回気にしているのは「自転車に乗っている時」なのですから,そこに焦点を当てたデータがこちら.
自転車乗用中の年齢層別死者数について,各年で比較したものです.


ご覧のとおり,自転車事故のほとんどは「高齢者」でして,その傾向はずっと変わっていません.
そして気になるのは,今年はその高齢者が前年と比べて増加していること.
もちろん平成18年〜19年の時のような前例があるので一概に言えないのですが,ここ10年間ずっと減少傾向にあったところからの反転というのは気になるところです.他の年齢層にはそのような傾向はみられないのですから.

これはもしかすると,以前の記事でも危惧していた,
「道路整備をせずにルールだけ強化しても無意味だし,むしろ,自動車・バイク側の意識が変わっていないのに自転車を車道に出すよう指示したら,逆に重大な死亡事故が増えるのではないか?
ということが現実になったのではないかと考えさせられます.

たまたま高齢者の事故が増えただけで,取り締まり強化の影響ではないのでは?
ということも考えられますので,その点を詳しく知りたいところですが,残念ながら年度途中の統計データでは詳細なところまでは考察できません.

そこで,それを類推するためにこちらのデータを見てみましょう.
以下は,死亡事故における「第1当事者別の事故件数」をグラフにしたものです.
第1当事者というのは「事故の責任が重い方」のことです.
当たり前ですが,自動車が圧倒的多数になります.事故を起こしても,相手が地球か建造物,もしくは同じ自動車でない限り自分が死ぬことはないので,第1当事者は免許も必要な自動車が多くなるわけです(同じように免許が必要な二輪車ですが,利用者数が少ないのでこういう結果になります).

そもそも交通事故全体が減少しているので,推移を見るには生データでは難しいようです.なので,生データについてはグラフではなく表にしてみました.


おや? 前年同期比で気になる動きがありますね.自転車と歩行者です.
そこにスポットを当てるため,比率で比較することにします.
平成17年を基準にして,そこからの変化の様子を表したのが以下のグラフ.

ご覧のように,交通事故全般が減少傾向にあることが分かりますが,歩行者もさることながら,自転車事故が今年は飛び抜けて増加しているように見えます.

歩行者は平成24年から増減にバラつきがある中での今年ですが,自転車はここ数年安定している中からの急増です.

つまり,自転車事故において「自転車側に過失が大きい死亡事故」が今年は急増していると考えることができるのです.

これってようするに,
自転車運転の取り締まりを強化した結果,
自転車が違反したことによる死亡事故が増えた
ってことですよね.
それってどうなの?というところですが.

その一方で,こういう見方をすることもできるでしょう.
取り締まりを強化したのだから,つまりは自転車側に責任が重くなるような事故が増えたんだろ?ということです.

ですが,そうはなりません.
なぜなら,今年6月から始まった自転車運転の取り締まり強化というのは,取り締まりを強化したのであって,運転の仕方やルールを強化したわけではないからです.
いわゆる「危険運転者に対する安全講習の義務化と,その違反者への罰金」というやつですね.交通事故における自転車側の責任が重くなったわけではないのです.

ということで,自転車運転の取り締まりを強化したのに自転車運転違反による死亡事故が増えたというのは,かなり気になる話なのです.
気になるっていうか,やっぱり現実に即していない取り締まり強化指示だったのではないかと思えてなりません.

これまでの話をまとめると,つまりこういうこと.
「自転車運転の取り締まり強化」という社会的な動きによって,自転車を運転する者(なかでも特に「高齢者」)の行動変化を促し,それが結果的に死亡事故を増加させることにつながった」
何がどういう行動を促したのか? といった憶測については,過去記事で述べているので,そちらをどうぞ.

とは言え,より詳細なデータ分析をしないと憶測でしかないので,今年の交通事故統計が出た時にまた記事にしたいと思います.


上記の「憶測」に至る細かい話については過去記事をどうぞ.
自転車の取り締まり強化後,一週間
追記:自転車の取り締まり強化後,一週間
「自転車は車道を走らない方が安全だろう」