2018年4月25日水曜日

大学におけるハニートラップの話を交えて

財務次官のセクハラ疑惑が,彼を標的としたハニートラップ疑惑として話題になっています.
世も末ですね.

セクハラ事件については,一連の記事にしています.
一般的なセクハラ問題を論じる

昨日もこんなニュースがありました.
セクハラ疑惑 麻生財務相「はめられたとの意見ある」(毎日新聞 2018.4.24)
麻生太郎副総理兼財務相は24日の閣議後記者会見で、財務省の福田淳一事務次官の辞任承認を公表した際、セクハラ疑惑について「はめられて訴えられているんじゃないかとか、世の中にご意見ある」と語った。被害を受けたとされる女性の訴えを軽視するかのような発言に野党から批判の声が上がっている。
疑惑の段階ですから何を言っても自由とは思いますけど,政治家なのですから,その言葉によって招く結果には責任をとってもらいたいですね.
過去記事でも書いていますが,どうして現在の自民党・安倍政権は,こういった後々ダメージが蓄積してしまう軽はずみな言動をするのか理解に苦しみます.
断末魔でしょうか?

ネットのコメントには「ハニートラップであるとの声は実際にあるのだから,本当の事を言ったまでだろ」と擁護するものもありますが,それを言い出したら,私のように「ハニートラップに自分からはまりにいった助兵衛を,財務次官に任命したお前が責任をとれ」という声もあるのですから,これらを公平に取り上げて頂きたいものです.

なぜ麻生大臣や政府は,「一部に,女性記者を貶めるような報道やご意見がありますが,彼女の名誉のためにも,そして事務次官のためにも,早計な憶測での報道はつつしんでもらいたい」などと言えないのか.
なぜに,「むしろ,ハニートラップの疑いがある」などと,セクハラ対応における最低最悪のコメントを出すのか不思議でなりません.
そんなこと言ったって,自分たちの置かれてる状況が好転するわけじゃないんだし.

十年くらい前に,子供が行方不明になった事件がありましたが,その時にその父親の人相が悪いことや言動の怪しさを理由に,「この父親が犯人じゃないのか?」などと世間は騒ぎましたよね.
それをブログで主張した女性タレントが非難されていましたが,これと同じものだと思います.
世間が「これはハニートラップだ」とか「父親が犯人だ」などと言っているからって,それを公式の場で述べて良いことにはならない.
この常識感覚が,今の政府には無いんですよ.

今,財務省と政府がやらなければいけないのは本事件の事実確認を急ぐことであって,「もしかしたら被害者にも落ち度があったのではないか」という推理・推測を披露することではありません.

例えば,「いじめ事件」を隠蔽していると生徒からリークがあった学校が,記者会見で「いじめを訴えてきた生徒は問題児で,嘘をついているのではないかという意見もある」などと言っているようなもの.
あのさぁ・・・,って呆れるでしょ.
そういう疑惑があるのは本当かもしれないし,実際にそういう見方もできるのかもしれない.
けど,あんたらが現在課せられているのは「いじめ」の事実確認だろと.生徒や被害者を疑うことじゃねえだろと.
それと一緒です.
日本の行政はOKで,学校はダメというのはダブルスタンダードです.

さらに,毎日新聞の関連記事としてこんなニュースもありました.
セクハラ疑惑 「ある意味犯罪」自民・下村氏が発言謝罪(毎日新聞 2018.4.23)
下村氏はコメントで「女性がはなから週刊誌に提供する意図で隠し録音していたのではないかという疑念が生じた。このような懸念を伝えたかった」と発言の意図を説明。その上で「『ある意味犯罪』と述べたのは表現が不適切だった。率直に撤回するとともに謝罪する」としている。
被害者がハラスメント被害を訴えるために,隠し撮りすることは普通に行われていることです.
我々大学教員も,FD(ファカルティ・ディベロップメント)とかでハラスメント対策の説明を受けることがありますが,セクハラやパワハラの被害者は,隠し撮りなどをして証拠を残すことが推奨されています.

下村氏は「女性がはなから週刊誌に提供する意図で隠し録音していたのではないかという疑念が生じた」などと言ってますが,彼女が週刊誌に提供する意図があったかどうかは分かりませんけど,はなから次官のセクハラを立証するために隠し撮りしていたことは間違いないし,その行為自体も間違っていません.

ハラスメントしてくる奴には隠し撮り.これ基本です.それが普通の世の中になることの方がなんぼか健全です.
政府や政治家はそんなことも知らなかったのでしょうか? 今時,常識ですよ.
てか,あなた方が「ハラスメント対策」として我々に周知してたことですけどね.

本件から得られた教訓は,今後,どのような相手であっても無礼な態度を取らないようにしましょう.貴方のその言動は記録されているかもしれませんよ.という,極めて理性的で倫理的なものなはずです.
それともなんですか.メディアの記者相手なら,セクハラや嫌がらせできるのが官僚の特権とでも言いたいのでしょうか.

繰り返しますが,本件で財務省や政府が取り組まなければいけないのは,あくまでも福田財務次官がセクハラをしていたのか否かです.これがハニートラップだったのかどうかは二次的なこと.
更に言えば,これがハニートラップだったのであれば,ハニートラップに引っかかるような人物を,あろうことか,我が国の財務事務次官として任用した責任は誰がとるのか? ということであり,今後このような事態が起こらないようにするにはどうすればいいか対策を打ち出すことです.

よく,本件を「ハニートラップ」として論じたがる人は「西山事件」を引きますよね.
西山事件(wikipedia)
しかし,両者は性質や幼稚性が全く異なる事件であり,ハニートラップとは言え公務員がそれにに引っかかったことも悪いという事例なんです.
西山事件は,「男女関係を脅迫材料として,官僚から機密資料を得る」という取材方法が問題視されていましたが,今回の事件は全く性質が違います.
取材相手が女性で魅力的だったのでセクハラ発言をしちゃいました.っていうのが録音されて公表されただけのこと.
「音声を公表していいのか!」っていう指摘は当然のこと,この女性記者や週刊新潮の判断には議論の余地がありますが,公表されちゃったものは仕方ない.
セクハラ行為が本当にあったのか否かの確認は,それとは関係なく粛々とされるべきです.

ってことで,前置きが長くなりました.タイトルの話をします.
もうかなり年月が経ったのでお話ししてもいいかなと思うんですけど,私が某大学に勤めていた頃にあった,ある男性教員がハニートラップに引っかかった例です.
今回の財務次官セクハラ問題が,もし仮に「ハニートラップ」だったとすると,それと非常によく似た状況ではないかと思います.
「ハニートラップ」というと,私はすぐにこの事件を思い出します.今回のセクハラ騒動でも,やっぱりこれを懐かしく思いました.

ターゲットになった男性教員は,もともとセクハラ癖のある教員として知られていました.
そんな教員ですから,やっぱり他の部分もネジが外れ気味だったようで,周囲から嫌われていたんですね.
私としては,その先生は大学教員らしい奇人ぷりだったので面白かったのですけど,このキャラクタが大学運営陣としては気に入らなかったらしく.

で,運営陣から女子学生による「くノ一」が送り込まれたそうなんですね.この教員からセクハラの不祥事を意図的に引き出そうという計画です.
え? 学生をくノ一に使うなんて言語道断だ! って? まあ,ブラックな大学ではよくあることなので,そこまで目くじらを立てないでください.
ブラック大学の詳細はこちら→■「教職員用」危ない大学とはこういうところだ
なお,「くノ一」と言っても,実はくノ一を任ぜられた彼女らにくノ一としての自覚があったかは不明ですが.

では,どういうハニートラップだったのか?
教員と学生とが同じバスに載って移動する日帰り出張があったんですが,そこにこの男性教員とくノ一学生数名が同乗するよう画策されたのです.
もちろん,当日,くノ一学生たちは肌の露出が激しい派手な服装で登場.
セクハラ癖のある当該教員としては,いやがうえにもテンションが上がります(あくまで推測だけど).

結果,やっぱりセクハラしちゃったんです.
くノ一学生に対する服装への言及(たぶん,「オッ◯イ見えそうだね」とか,「太腿がきれいだね」とか言ったと思われ)と,極めつけはボディタッチ.
はい,アウト.
同乗していた別の大学職員や学生からも裏付けがとれてしまい,逃げ道はなし.
結局,この男性教員はさんざん糾弾され,その年度で退職に追い込まれました.

見事なハニートラップですね.
まさに,「計画通り」.
夜神月もびっくりの結末です.
と同時に,やっぱりセクハラ癖のある人は,その衝動を抑えられないんでしょうなぁ.
憐れ.

もちろん,このハニートラップには問題点がたくさんありますよ.
セクシーな学生を,わざとセクハラを受けさせるために送り込むなんて,教育現場にあるまじき行為と言えます.
それでも,やっぱりセクハラ行為をしたことに違いはないのだから,この男性教員が擁護される筋もありません.
だって,私ならその女子学生相手に卑猥な言葉はかけないし,お触りもしない.そもそも,露出が激しい女だったらセクハラしていいという理屈は成り立たない.

「男は皆オオカミだ」などと不思議な言い訳を目にすることもありますが,いえ,違います.我々は人類です.
例えば,それがオオカミでなく犬だったとしても,警察犬や盲導犬の前に,美味しそうな肉を放り込んだからって,それに元気良くかぶりついていたら警察犬や盲導犬としては失格です.
「肉を放り込んだことが悪い」とか,「美味しそうなお肉だったんだから仕方がない」なんて言い訳は通用しません.
彼らは警察犬であり,盲導犬として仕事してもらわないといけない存在なのですから.
それと一緒です.

もちろん,教育現場においても卑劣なハニートラップがあるのはたしかです.
女子学生から「自殺してやる!」と連絡が入った男性教員が現場に急行.そこで女子学生が男性教員に抱きついたところが隠し撮りされてて,ネットで拡散.生徒やその保護者からクレームが殺到したんだけど,実はそれはトラップだった,なんてのも聞いたことがあります.

たしかに悪質なハニートラップですが,こういうのは管理職や教育委員会が対処すれば直ぐに名誉回復できる話だし,セクハラとか不適切な関係とは言えない事案です.あくまで「スキャンダルの捏造」というレベルの話.

警察犬や盲導犬の例えで言えば,「よし!」と言われたのでお肉にかぶりついたら,実はその肉はニセモノだったというのと一緒.別にそのワンちゃんに「ニセモノを見分けられずにかぶりついた罪」なんてものはありません.
翻って今回の財務事務次官ハニトラ疑惑では,美味しそうなお肉が放り込まれたので,それにかぶりついちゃったという話でしょ.
性質が全然ちがうんですよ.