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【大学教員になる方法】哲学の基本はおさえておきましょう

今さらながら,大学教員になる方法の記事を再開します.
だいぶ古いですが,過去には,
大学教員になる方法
大学教員になる方法「強化版」
大学教員になる方法「感想版」
大学教員になる準備
といった記事を書いてきました.

これから大学教員を目指す/着任した人の参考になればと思います.

今回は「大学教員なんだから哲学の基本はおさえてあげましょう」です.

「おさえてあげましょう」というのは,学生目線からです.
学術活動の基礎・基盤が怪しい大学教員と対峙する学生は不幸というもの.

意外に思うかもしれませんが,哲学的な対話が理解できる学生は,難関・Fラン問わず一定数存在します.
そして,哲学的な問いかけに対しトンチンカンな返答をする教員を,学生は鋭く見抜いて判別してきます.

それは本能みたいなもの.
教養レベルの高いものを判別する能力は,「学力」との相関はそれほど高くありません.
一般社会に出てみたら嫌でも思い知らされることですよね.
どこかに線引きがあるわけではないのですから,大学生にだってそれは当てはまります.

あなたが「ここの学生は勉強しないバカばっかりだから・・・」と見下しているようでも,実は一部の学生からは「この教員は薄っぺらい」と蔑まれている可能性もあるのです.
哲学的な議論ができる人かどうかは,アピールするものではなく滲み出てくるものですから.





哲学入門のオススメ書


元来,大学教員は哲学をする人です.
Ph.D.(Doctor of Philosophy)っていう称号を持っているなら尚の事.

実際のところ,大学教員にしても博士号取得者にしても「専門家」の域を出ない事が多いのですが,「大学」という場所で働くからには哲学の基本はおさえておきたいもの.
一般哲学から縁遠い人であっても,なんとかしてください.
それが学生のためにもなります.


私もかつてそう考えていましたので,研究員をやっていた頃から「哲学」について自分なりに整理しておきたいと思っていました.
ところが,「入門・〇〇」といった書籍を読んでみるものの,ぜんぜん入門じゃないっていう罠にかかること数多.

そして大学教員になってしまった2010年.
その時になって,ようやく出会ったのが飲茶 著『史上最強の哲学入門』です.
この本は過去記事でも「オススメ書籍」として紹介したことがありますが,ここでも再度推薦図書とさせていただきます.



何かって言うと周囲の人たちにもオススメしまくっているので,それで買わされた学生や後輩たちも結構います.

表紙が「マンガ」な感じがするので,それで格調高い本を買いたい人からは敬遠されている可能性がありますが,内容は至って真っ当.
西洋哲学2500年の歴史を一気に把握できる哲学入門の名著です.


実は,私としてはこっちの方がオススメ度が高い飲茶 著『史上最強の哲学入門・東洋の哲人たち』


これを読めば,
「ヤージュニャヴァルキヤ様,半端ないって!」
ということが分かるはず.

西洋哲学が2500年かけて辿り着いた境地に,インドのオッサンは2700年前に既に到達していました.

映画『剱岳 点の記』に,前人未到の剱岳登頂だと思って決死の覚悟で山頂に立ってみたら,実はそこに修験者の杖が落ちていた(かつて登頂者がいた),という描写がありますが,あれと似たようなものです.
人類にとって大きな飛躍だと思って月面に降り立ったら,そこにサリーとヨガマットが落ちてあるようなもの.

考えてみれば当然のことですけど,人類が哲学を始めて数万年になるのです.
たかだか2000年や3000年なんて誤差範囲です.

細かい話は,過去記事である,
究極のストレス・マネジメント術
を御覧ください.




正義とは何か? 哲学的考察


そんな哲学入門の傑作書を続けて書いてくれている飲茶氏ですが,このたび上梓されたのが『正義の教室』です.
さっき読了しました.
これも「正義とは何か?」を哲学の歴史から追ってくれていまして,非常に理解しやすい内容になっています.



これまた「マンガ」っぽい表紙なので,ご年配の方だとそれを気にする人もいるかもしれません.
しかし,内容は極めて真っ当です.

「正義」について,学園モノの小説スタイルで理解することができるようになっています.
飲茶氏によれば,「正義論」の歴史をたどれば,以下の3つに収斂されるとします.
そして,人々はいずれかの立場から「私の正義」を語っているのです.

(1)功利主義:平等の正義:最大多数の最大幸福
(2)自由主義:自由の正義:愚行権
(3)直観主義:宗教の正義:イデア

いずれの主義にも,それぞれの立場に正義があり,それぞれに問題を抱えていることが解説されます.


たとえば功利主義は,「最大多数の最大幸福」を謳い文句にする主義ですが,そもそも「幸福」を定量化できないのに,「できる」ことにして正義を振りかざすことで問題が発生します.
人によって,時代によって,状況によって「幸福」の大きさや質は変わるのに,「これが人間の幸せだ」という押し付けの正義なのです.
エリート的とも言えるでしょう.

功利主義の行き着く先が,一部の特権階級が用意した幸福をその他大勢が享受するディストピアです.
平等で公正な幸福を目指すことが正義と考えるこの思想は,社会主義と共産主義を生み出しました.


自由主義は,とにかく「人は自由である」ことを正義とします.
「他人の自由を侵害しない限りにおいて,自由である」ことを謳い文句にする自由主義のキーワードは,「自己責任」「弱肉強食」「愚行権(不幸になれる自由)」です.

自由主義の行き着く先が,現在の日本と言えるでしょう.
現在では「新自由主義」として政策が展開されています.

最大の問題点は,「自由」と言いつつ,その自由は「制限(用意)された中での自由」ということです.
サファリパークみたいなものですね.中の動物たちは,一見「自由」にしているようで,実はしっかりと檻の中.
そして,その「制限を用意する者(強者)」によって,他人(弱者)の自由は侵害されます.
これは自由主義が掲げている正義に反します.矛盾しているのです.

ちなみに,私は飲茶氏による「複雑な自由主義の解釈方法」について得心がいきました.
定義や範囲が難しい自由主義を,シンプルにまとめて解釈しています.
その解釈方法を知るだけでも,入門書としての価値があると思います.


直観主義は,「宗教的な理想や,伝統的な価値」を正義とします.
たぶん,世界中で最も多くの支持者を集める主義です.
「人を殺してはいけない理由など無い.理由は無くてもダメなものはダメ.それは人間が人間であるための条件だ」という直観主義は,絶対的な正義の存在を求め続けてきたのです.

しかし,そうした「宗教」や「伝統」に根ざした正義は,最も他者を不幸にしてきた歴史があります.
神の名のもとに起きた戦争.
民族意識によって発生した迫害.
「正義は我にあり」と考える人の多くは,自分が直観する絶対的な正義を振りかざします.
でも,そんな暴力的な行いが本当に「正義」と呼べるのでしょうか?


この「怪しい正義」を葬ったのが,あのフリードリッヒ・ニーチェです.
「神は死んだ」という有名な言葉は,「人が直観的に捉えた絶対的な正義」なるものがデタラメであることを喝破した言葉なのです.
ニーチェはその「デタラメな正義」の代表例として,キリスト教を取り上げて批判しました.
その主張については,ニーチェ 著・適菜収 訳『キリスト教は邪教です!現代語訳「アンチクリスト」』が手軽に読めるのでオススメします.


ニーチェによれば,「絶対的な正義」なんてものは存在せず,それは支配者や特権階級が自分たちの都合に合わせて作り上げたトンデモ理論なのです.
人間は誰しもが不完全で未熟です.
そんな不完全な存在が,絶対的なもの,完全なものなど認識できるわけがない.

それを言い出したら「功利主義」も「自由主義」も同じですね.
3つの正義論と主義は,いずれも各々が「これこそが正義」と考えるための理屈の上に乗っています.

ところが,ニーチェはそれらに対し「そんなものは存在しない」と切り捨てたのです.
こうして2500年におよぶ西洋哲学の「正義論」は,ニーチェによって強制シャットダウン,もとい,電源コードを引っこ抜かれて,現在に至ります.


そんな正義に対する哲学史を踏まえ,飲茶氏は最後に「これからの正義の話」を展開しています.
その正義とは.ニーチェ以後に勃興してきた構造主義とポスト構造主義からの捉え方.
その詳細については,ぜひ『正義の教室』を御覧ください.


ちなみに,この本のなかで「パノプティコンと学校」が取り上げられています.
実は,昨今の「いじめ問題」における学校側の対策として,まさにこの点を議論してみたいと思っていたところだったので,渡りに船でした.

次回は,この「パノプティコンと学校」について記事にします.



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