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民主主義のためには「選挙に行ってはいけない」|「若者よ、選挙に行くな!」は正しい

選挙には行かないほうがいい理由がある


「民主主義を正しく機能させるためには,選挙に行かないほうがいい」
市民が積極的に選挙活動すると,民主主義を破壊します.
というのが前回の記事でした.
選挙に行かない理由を探している人は、こちらを参考にしてください

その記事が結構アクセスがあって,SNS経由で読まれているところもあるようです.

「選挙に行きましょう!」
という主張は手放しで周知されるのに,
「選挙に行ってはいけない!」
という主張は頭ごなしに叩かれます.

これは結構ヤバいことです.
それこそ,“民主主義的に” 考えてもヤバい.

そんなわけで,前回の記事をもうちょっと続けてみます.



選挙に行くべき正統な理由を解説している人は見当たらない


私の専門領域としても,かつては,
「スポーツ中には,水を飲んではいけない」
とか,
「怪我をした場所は,しっかりマッサージする」
とか,
「筋力トレーニングや体操競技をやると身長が伸びなくなる」
とか,
「牛乳を飲んだら背が高くなる」
などと言われていました.

今となってはバカバカしい話ですが,以前は結構本気で信じられていたんです.
爺さん婆さんなんかは,いまだに信じてたりします.

断片的で安直な相関関係や,慣習の混じった感覚的なものから形成されていた「知識」だったとも言えます.

「民主主義のためには,ちゃんと選挙で投票すべき」も,それと同様です.
理由をきちんと精査してみた方がいい.

ところが,
「みんな,選挙でちゃんと投票しましょう」
というこの考え方.
調べてみても,筋の通った理由が見つからないんですよ.

試しに,「選挙に行く理由」をグーグルで検索してみました.
すると,その “理由を解説しているサイト” として以下がヒットしました.
それぞれ,概要と一緒にお示しします.
※太字修飾は,私が付しました.

【政治参加】若者こそ、選挙に行くべき4つの理由|えっ、行かないの?もったいない!(ひきこもり科学館 個人サイト)
①これからは、お前らの時代だ!
②せっかくの権利、行使しなきゃ!
③投票って、メリットしかないよ
④すでに「ハンデ戦」って分かってる?

私たちはつい忘れがちですが、選挙に行って票を投ずることは、大切な国民の権利の1つなのです。そう考えると、せっかくの権利ですから、ちゃんと行使しないと「もったいない」ですよね?

選挙に行く理由(法務行政書士事務所リーガル・ウィンドのホームページ)
民主主義の核心は、自由主義にあります。私たちが幸福であることの前提として、私たち一人々が尊重され自由であることが必要であると考えるのが自由主義です。私たち人間は社会的な生き物ですから、自由主義を担保できる社会のしくみを構築する必要がありました。そのしくみが民主主義であるのです。そして、選挙における投票も、自由主義を担保する民主主義というしくみの一つであるわけです。民主主義の存在意義は、自由主義を実現するためにあります。

中高生のための憲法教室<私たちはなぜ選挙に行くのか>(法学館憲法研究所のホームページ)
誰かえらい人が決めたことに無批判にしたがうのではなくて、自分たちの生活のことは自分たちで主体的に決めていこう、という発想が民主主義なのです。
そして、このように政治に積極的に参加していくための人権を、「参政権」といいます。「選挙権」や「被選挙権」がその代表です。
「自由権」という人権と「参政権」という人権とは、実は表裏一体であることがわかっていただけたでしょうか。言葉をかえれば、「自由主義」という価値と「民主主義」という価値とは、切りはなせないものなのです。自分たちの生活を自分たちで決めることができて、はじめてほんとうの自由を獲得できるのです。
ですから、自分や社会のことを適切に判断できるだけの最低限の能力が必要とされるので、年齢制限がついています。みなさんが参政権を行使できるようになるまで少し待たなけれぱならないのですが、せっかくこれを使うことができるのに使わないのはほんとうにもったいないことです。自分のことは自分で決める、自由に生きるためには人まかせにしない。これが選挙に行くいちばんの理由です。

なぜ若者は選挙に行くべきか(自由民主党のホームページ)
私が3年前に初当選したときの得票数は約27万票ですが、相手候補と接戦でした。でも世代ごとの投票結果を調べてみると、20代、30代では圧倒的に私への支持が多かった。この事実は、新人議員の私に「若い世代のための政策をしなければ」という気持ちにさせました。(大沼みずほ議員)
(中略)
投票する側からだけ見れば、自分の一票は投票総数の何十万分の一、何百万分の一ということになります。一方で立候補者がいて、その人たちは一票一票を獲得するために必死で戦っている。ですから、誰が投票してくれたかだけでなく、普段の街頭活動や集会で各世代の人々がどのように反応してくれているか、政治家はしっかり見ています。若い世代が一票に託す想いが届かないなんて、そんなことは絶対にありません。信頼してぜひ投票に行ってほしいです。(宮川典子議員)

他にも,
なぜ選挙に行くべきなのか?セレブたちはこう答える!(フロントロウ 2019.7.20)
という記事がヒットしましたが,内容としては極めて杜撰で,とりあえずPVを稼ぐことが目的なだけの記事でした.
セレブのリップ・サービスに興味がある人は読んでください.


上記のように,「選挙に行く理由」をきちんと解説・主張したサイトが無いことが分かります.
これは私としても意外でした.
熱く丁寧に「選挙に行かないければならい理由」を掲載したサイトがいっぱいあると思っていたからです.

それに,上記の記事にしても,解説や主張は弱いですね.
主に,
「せっかくの権利を行使しないのはもったいない」
「民主主義は自由主義を実現するためにある」
「被選挙人からすると,有権者に合わせた政策を考えるきっかけになる」
ということになりそうです.


「もったいない」については,選挙に行く理由ではありません.
選挙に行かないことを「もったいない」と思わない人にとっては,無意味です.

「民主主義は自由主義を実現するためにある」は,思想・哲学上の誤りです.
たしかに「自由民主主義」という政治体制や党名はありますが,本質的には,民主主義と自由主義は反発する思想です.
ですから,自由主義は民主主義的な手続きを批判的に捉えます.
それは自由主義が目指している,個人の自由を拘束することになるからです.
それに,自由主義と言っても多種多様で,何をもって自由というのか,それも人それぞれになってしまいます.

そもそも,自由主義の実現に選挙は全く関係ありません.
自由主義からすれば,選挙に「行く」のも「行かない」のも自由です.
もっと言えば,本当の意味で自由主義者なら選挙結果や投票行為など意に介さないですし,投票しなかった人の意見も尊重するのが本来の自由主義です.
なぜなら,自由主義では,自分自身の自由は,他者の自由を守ってこそ成り立つと考えているからです.
そこには「選挙結果」や「投票行為」は関係ありません.
「民主主義は自由主義を実現するためにある」というのは勘違い,はっきり言えばデタラメです.

「被選挙人からすると,有権者に合わせた政策を考えるきっかけになる」については,これは論外です.
有権者の顔色に合わせて政策を決めるなど,自由民主主義を標榜する「自由民主党」の政治家としてあるまじき言動と言えます.
街のパン屋さんやコンビニの店長ならまだしも,為政者の言葉としては不適切です.




どうしても選挙に行きたいのであれば・・・


そんなわけで,選挙に行かなければならない理由をまともに解説しているサイトはありませんでした.
見つかったものはどれも,浅はかな精神論や間違った政治的解釈,そして,自分の都合を他人に共有するものなのです.
(上位にヒットしないだけで,きちんとした解説をしているサイトが他にあるかもしれませんが)

もちろん,どうしてその理由が見つからないのかは,前回の記事でお話したところです.
「その共同体の構成員・全員が,選挙でちゃんと投票しなければいけない」ということを徹底すべき理由などありません.
むしろ,そんなことをすると民主主義による政治は頓挫します.
これは,人類が政治について考察してきて数千年,一貫して説かれていることです.


ところで,先日の参議院選挙を前に,こんな話題がありました.
「若者よ、選挙に行くな!」動画が話題沸とう “逆メッセージ”の狙いと効果は?(FNNプライム  2019.7.15)
参院選挙が21日に迫る中、若者たちに「選挙に行くな!」と呼びかける映像が話題になっている。
(中略)
今回、動画を作成した狙いは、“選挙に行くな”と若者を突き放すことで、逆に政治や投票への関心を持たせ、投票に結びつける事だというが、実は、同じような手法がアメリカでも行われていた。

若者の投票率を上げるために,あえて作成して流したとのことですが,実際には若者の投票率はさらに低下しました.
参院選、10代 投票率31% 全世代より17ポイント低く(東京新聞 2019.7.24)
という現象があります.
総務省は二十三日、参院選(選挙区)の十八歳と十九歳の投票率(速報値)は31・33%だったと発表した。全年代平均の投票率48・80%(確定値)より17・47ポイント低い。大型国政選挙で選挙権年齢が初めて十八歳に引き下げられた前回二〇一六年参院選に比べ、速報値で14・12ポイント、全数調査による確定値からは15・45ポイント下がった。政治参加を促す主権者教育の在り方が課題になりそうだ。

若者を選挙に引っ張り出す必要などありません.
行きたい人だけが行けばいいんです.

その一方で,「選挙に行く理由」は見当たらないけど,「行ったほうがいい理由」について話題になったニュースもあります.
「なぜ選挙に行ったほうがいいの?」 漫画の解説に「納得」の声相次ぐ(ニコニコニュース 2019/06/24)
若い世代の選挙離れが深刻な日本社会。ネット上でも選挙に行くことに否定的な声がよく見受けられます。
3人の子どもを育てるイラストレーターのたきれい(@takirei2)さんは、『若い世代が選挙に行く重要さを解説した漫画』をTwitter上に投稿しました。
「分かりやすい」と反響を呼んだ、こちらの漫画をご覧ください。
その記事から画像を引用します.
https://news.nicovideo.jp/watch/nw5540231
このマンガ・イラストで解説されている内容は,あるところで正解ですが,あるところでは間違いです.

まず,投票率が上がると「接戦になる」という理屈は成り立ちません.
身も蓋もないことを言えば,「神さまの言うとおり方式」を取ると,票は全体的に分散します.
それでは「若い世代に税金を使わないと落選する」という焦りを生み出すことにはなりません.

次に,政治家としての「そもそも」論があります.
前述したように,有権者の顔色に合わせて政策を決めることは,民主主義の政治家としてあるまじき振る舞いです.
民主主義政治における最大の敵と言っていい.
これについては,「政治家なんてそういうもんだろ」という意見があって然りでしょうが,それは「選挙に行かなければダメ」という理屈以上に悪性です.


その一方で,「神さまの言うとおり方式」ではなく,
「圧勝しそうな政治家・政党以外に投票する方式」
であれば意味があります.
もしかすると,上記のマンガを描いた,たきれい(@takirei2)さんも本当はそれを訴えたかったのかもしれませんが,それだとちょっと世論(特にネトウヨ)を敵に回しかねません.

それを承知で意見表明をしている人として,例えばアニメ監督の宮崎駿氏は「日本共産党に投票する」ことを勧めています.

これについては,前回の記事の冒頭でご紹介した岡田斗司夫氏による動画でも解説されています.
※動画は1時間21分ありますが,開始9分30秒〜14分がその「宮崎駿の選挙論」です


つまり,「政権与党と最も仲が悪い政党に投票する」方法が良いという考え方です.

間接民主主義では,政治家が議論を尽くして政策を決めます.
その議論をするにあたって,最も面倒くさい政治家を議会に送り出すことで,多数者の専制になりがちな議論を回避しようという方法と言えます.
ようするに,杜撰な議論よりも面倒くさい議論を選ぶということです.


先日は,政治に「民意」を反映させてはいけない理由や,政治思想の基本について適菜収氏の書籍を紹介しました.
この人は,「民主主義」の危険性を訴える保守派の評論家です.
最近では,保守言論をする人のなかに「民主主義」や「自由」を安直に信じる人がいますが,それとは一定の距離をおく硬派な保守言論の活動を展開している人と言えます.
 

そんな適菜収氏ですが,最近はこんな本を出しました.

そのタイトルは,『日本共産党政権奪取の条件』


実は,適菜氏も宮崎駿氏と同様,劣悪な現政権が圧勝するくらいなら,日本共産党に入れた方がマシ,という趣旨を述べています.
安倍政権を放置すると国が滅びるというより、すでに滅びている。だから、私は日本共産党の主張の多くを支持してますし、日本共産党にも投票しています。
ご存知の方も多いと思いますが,適菜氏は普段から共産主義を徹底的に批判しています.
本書の対談相手である,日本共産党の清水忠史氏とも考え方が合わない部分もたくさんあるようです.

しかし,意見が全部一致する人などいません.
あとは,どれだけ道徳的・倫理的に慎重な議論ができる人か否かが問題となります.

その点,現在の自民党にそれは期待できない.
となると,共産党に躍進してもらって議会をかき回してもらった方が,幾分か国体崩壊の時間稼ぎになる.
ということです.

これについて適菜氏は「腐ったまんじゅうと毒まんじゅうのどちらかを食べろと言われたら,腐ったまんじゅうを選ぶべきだ」と説いていました.


私としては,共産党に票を入れるのもいいですが,やっぱり選挙なんか行かずに,きちんと社会に対して文句言ってる方がいいと思います.
まずは,「若者よ,選挙に行くな!」でしょうか.

賛同してくれる人は,とりあえず「選挙にも行かずに文句言う奴はダメだ」とのたまう人をバカにするところから始めましょう.
どうやら彼らに言われせれば,選挙に行くべき理由とは,自由主義と民主主義を実現するためのようです.
だとすれば,「選挙にも行かずに文句言う奴はダメだ」という言葉はそれと矛盾しています.
こういう手合は,本当の意味で自由と民主主義の敵です.


後日,この辺のことを詳細に論じました.
なぜ「投票しなかった人は政治に口を出してはいけない」と言われるのか?


政治に「民意」を反映させてはいけない理由はこちら.



政治思想の本質部分を簡単に理解するにはこちら.



現在の日本の民主主義が抱えている問題はこちら.



三島由紀夫が日本の民主主義の将来を予想していました.


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