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なぜ大学教員をやめて農業を始めたのか? その2|研究三昧になりたくて研究者をやめた

前回の記事では,「山遊び」に生きるために大学教員をやめて山深い自宅に移り住んだ,っていう話でした.
今回は,もっと直接的な「大学教員をやめた」理由です.

ざっくり言えば,「研究」を毎日四六時中ずっとやっていたかった,ということ.

そのために「農業」,わけても今私が取り組んでいる作物はうってつけでした.

季節性のものではなく周年栽培なので,毎日の仕事がそのまま研究活動であり,どうすれば成績があがるか,経費削減になるかを分析する日々.
その結果は,出荷量や購入者からの声,そして収入として返ってきます.


会議や運営業務が嫌でしかたなくて,それで辞めた,っていうのは結構大きい


大学教員に多い「仕事への不満」のランキング上位が,
「なにはさておき会議が大変」
「運営業務さえなければ楽しいのに」
というもの.

私もそれには激しく同意です.

同意するだけじゃなくて,私はこれがとにかく嫌で嫌でしかたなかったんですね.
だから辞めちゃいましたって言うのは過言ではない,って言っても過言ではありません.


私はこれまで2つの大学で,任期付きではあるものの,一応は「専任」枠の教員として10年ほど所属していました.
これはかなり幸運なことで,26歳からなので,大学教員同士の間でも結構羨ましがられたものです.

そんな声のなかには,
「非常勤生活をしている人に比べれば・・・」
などと言われることもあったりしたんですけど.

そんな私も,今の生活を始める直前には,「非常勤講師だけの生活」をしたこともあるんです.
非常勤講師だけになった時,いろいろと将来や進路を心配してくれる人もいたんですが,実は,私としてはその時期が「大学教員」としては一番楽しかったんです.

会議や運営業務,そして学生対応とか試験業務等々から開放されたことの爽快感と言ったら,言葉にできないほどです.

畢竟,私の性格・気質をざっくり分析するに,「サラリーマン」ではなくて,「フリーランス」とか「経営者」なんだと思うんです.


そんな私も,非常勤講師生活をやっていながらも悩みはあります.
その一つが,
「研究ができない」
っていうこと.

否,できなくはないんですけど,そんな気分になりにくいし,研究にドップリ浸かるっていう感覚が薄いんですね.

幸いなことに,非常勤講師先を見つけることには苦労しませんでした.
特に,大学の数が多い首都圏・近畿圏なんかだと,非常勤講師探しに苦労しているところは多いものですし.

頂戴する話をすべて受けていたら,毎日毎日,どっかの大学で朝から晩まで授業しっぱなし,っていう状態にできたりもしたんですが,さすがにそれは避けました.

よくある話ですが,非常勤講師をたくさんやっている人の方が,専任教員よりも収入は上になります.
大学によっては,非常勤講師に多額の報酬を出すところもあったりしますので.
あと,私たち体育・スポーツ系の場合,学外授業(スキー・スノボ,マリンスポーツなど)を受け持つと,かなり高収入になってきます.
ある大学では,4日間のスキー実習の講師をやって約30万円いただきました(集中講義方式であっても,基本的に授業半期分として計算するからとのこと).
3つくらいの大学をかけもつと,結構なものです.

おっと,収入の話ではなく,研究の話でした.

とにかく,授業三昧の日々のなかで,もともと自分が取り組んでいる研究をやるっていうのは難しいんです.
だから,授業そのものを研究してみたり,授業内で研究調査をしてみたりといった視点に切り替えたりしてました.
それで論文を書いたこともあります.

けど,なんかね,あんまり乗り気になれなかったんです.

もっと,研究そのものが仕事とかライフワークにならないものかと模索・思索を繰り返していたのですが,そんな時,
「っていうか,実家に帰って農業すればいいじゃん」
って閃いちゃったんです.

もともと,実家の仕事は子供の頃から手伝っていました.
なので,どんな仕事なのかは凡そわかっていました.
それに,その仕事が研究的なものであることも察していたんです.

そもそも,私が大学院に進学して「研究」を続けていきたいと考える基盤は,この実家の農業経験があったからです.


そんなこんなで田舎暮らしを始めて2年になっていますが,実際のところどうなのか?

予想は的中.
農業は,すなわち研究活動そのものです.
なので今のところ充実した日々を送っています.

てっきり,経験と勘に頼った労働だと思われていますが,実は科学とテクノロジーを駆使した活動です.
だいたい,農業って我々人類が古代より関心を寄せている,最大級の研究課題だと思うし.

目下,多くの農業では労働人口を極力少なくして,生産性を上げることを目指しています.
なので,自動化とか統計データの解析,あとはエネルギー効率の最大化がホットな話題になってますね.

私の場合,成績の良い栽培方法を統計データから分析するところから始めました.
冒頭にお話したように,うちの作物は周年栽培ですから,毎日毎日繰り返し植物工場のようなプラントで栽培を続けています.
なので,ちょっとずつ栽培方法を変えたロットを用意して,それらをデータ化して分析したんです.

そしたら,少なくとも私のところのプラントにおける最適な栽培条件というものが出てきます.
私が発見したもののなかには,全国的にも「邪道」とされている方法とか,「非常識」とされている工程もあって.
そういうのが見つかるのが面白いのです.


そんな取り組みは農業としては当たり前のことじゃないのか? って思われるでしょ.
特に,このブログを読んでる皆さんの多くが「大学教員」とか「研究者」とか「院生」だったりするから.
でもね,実のところ,そうやって研究チックに農業やってる人って案外少ないんですよ.

逆に言えば,農業を楽しんでいる人,上手くいっている農家さんというのは,研究者タイプの人が多いですね.
そう,職人気質というよりは,研究者気質なんです.


最近,私のところでは電力会社と空調機器メーカーの方々と一緒に,新しい栽培システムの開発をしています.
皆さん曰く,意外と農家の方は「実験」とか「研究調査」というものに及び腰になることが多くて,私みたいに共同研究してくれる人は少ないらしい.

実際,「今までこの方法でやってこれているんだから,それを変えて失敗したくない」っていう気持ちが大きいんですね.
だって,農業ってなんだかんだでハイリスク・ローリターンな仕事ではありますから.
あとは,新しいことやって失敗して,周囲の仲間から笑われたくない,っていう田舎者の発想もあったりするかもしれない.

なんにせよ,私はそんなこと気にする人間じゃないんで,好き勝手にやらせてもらってます.


以前,このブログを見つけて読んでいる人のなかには,
「大学教員 やめたい」
って検索している人が少なくない,っていう話をしましたよね.

私としては,研究者としてのステータスや所属を「大学」とか「研究所」に求めるだけじゃなくて,農業に求めてみることもオススメします.
特に,理系の人は案外楽しめる人って多いと思いますよ.

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