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人間は『身体』を通して理解する「ファーストガンダム編」

前回の,井戸端スポーツ会議である
人間は『身体』を通して理解する
の続編です.

上記の記事では,「人間は身体を通して理解する」ということに対する現代文化・芸術の典型がSFロボットアニメだということを取り上げました.
SFロボット作品においては,人型ロボットが,作品のメッセージを増幅させるための「依代」として描かれているというものでした.
こうした作品では,人型ロボットが主役のように描かれていますが,そもそも彼らはなぜ「人型」として描かれるに至ったのか.

それは,人間が「人型」のモノを通すことで,そこで起こっていることを理解しやすくなるということであり,SFロボット作品であればつまり,人型ロボットを「依代」とすることで,そこに作者が作品で訴えたいことがより伝わりやすい,ということでした.

アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズにもそれが現れているという話をしていましたが,今回はこれについて,もう少し具体的に解釈をしてみようというものです.

機動戦士ガンダム・シリーズの第一作目,ファーストガンダムと呼ばれる作品の最終話では,「人間は身体を通して理解する」ということについて非常に興味深い展開があります.

ネタバレも含めて解説すると,このファーストガンダムガンダムの最終話では,主人公のアムロ・レイと宿敵シャア・アズナブルは,SFロボット戦争作品であるのにロボット同士での決戦では決着がつかず,なんと最後はコクピットを降りて生身の格闘戦(フェンシング)を始めます.

そのフェンシングで決闘をするときの二人のセリフが意味深長です.
シャア「分かるか?ここに誘い込んだわけを」
アムロ「ニュータイプでも体を使うことは,普通の人と同じだと思ったからだ」
シャア「そう,体を使う技は,ニュータイプと言えど訓練をしなければな」
「ニュータイプ」というのは,ロボット兵器であるガンダム等のモビルスーツを操る技術が極めて高い能力者のことです.つまり,「ニュータイプ」というのはパイロットである「自分の意思」をロボットで的確に表現できる人と捉えることができます.
この「ニュータイプ」というのは,その他のガンダムシリーズにおいても重要な役回りをするキャラクターなのですが,その意味するところというのは「ロボットに命を吹き込むことができる者」であり,より具体的な解釈をすれば「ロボットを通して“も”自分の意志が表現できる者」ということでしょう.

そんなわけで,モビルスーツ・ガンダムと呼ばれるロボット兵器を操ることに主眼を置いて進んできたストーリーになっています.タイトルもずばり「機動戦士ガンダム」ですから.
ところが,このファーストガンダムではニュータイプであるライバル二人は,最後の決着をロボット兵器・モビルスーツのコクピットから降りて,生身の身体でつけようとします.
ここに機動戦士ガンダムの面白さが見えます.

まず,このライバル二人のフェンシング対決での会話は,多くのSFロボット作品において「人型ロボット」が人の意志を表現する依代であることを逆説的に示しているシーンと見ることができるでしょう.
すなわち,生身の身体の操作(表現)とロボットの操作(表現)は違うものだろう,という趣旨のもとに展開されているのです.少なくとも登場人物であるシャアはそう考えているようです.
しかし,そうではない事を暗示する結末を迎えます。

そもそも「ニュータイプ」とは,あたかもロボットを自分の身体のように操れる能力者でしたよね.
ですので,その決着がどうなったか?というところもまた意味深長なのです.
結局,ロボット同士の決戦と同様,決着はついていません.いえ,どっちかというと宿敵シャアのセリフにあるように,
「ヘルメットがなければ即死だった」
ということで,主人公アムロが優勢だったと見ることもできるでしょう.
(しかもご丁寧にも,先立ったロボット同士での決着と同様に,剣はアムロの右肩をかすめ,シャアは頭部に当たっています)
ちなみに,物語終盤においては,主人公であるアムロは宿敵シャアを凌駕するパイロットになっていました.それに焦ったシャアだからこそ,フェンシング対決に持ち込んだ,という流れです.

シャアにしてみれば,ロボット戦においても生身の格闘戦においても負け気味で終わっているんです.
つまり,人の「想い」や「意志」の表顕というのは,「ニュータイプ」をもってすれば生身の「身体」であっても,その身体の延長線とも見做せる「人型ロボット」であっても結末に違いは無い,ということを示しているのかもしれません.

これは体育学や身体論,神経生理学,ロボット工学という観点からも非常に興味深い考察ができそうなテーマでもあります.
その続編については,また機会があれば記事にしたいと思います.


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