2017年3月15日水曜日

井戸端スポーツ会議 part 42「スポーツウェアが次世代のファッションを決める」

スポーツの井戸端っぽい話を一つしましょう.
スポーツウェアについてです.

過去記事である,
井戸端スポーツ会議 part 41「スポーツで考えるファッション」
体育学的映画論「プラダを着た悪魔」
で,スポーツが近代以降のファッションを方向づけていることをお話しました.
つまり,近代以降のファッションは,
(1)身体のパフォーマンスを最大化すること
(2)着用者に理想的身体を要求すること
に収斂されるというものです.

特に(1)については,「服装」はいつの時代もそうではないか?と思われるかもしれませんが,実はそうではないことが知られています.
例えば19世紀まで,洋服では女性はきついコルセットをしていましたし,動きにくいドレスを着るのがステータスでした.今でもそうですが,わざと動きにくい格好にしているとしか思えない,そして「身体保護」の観点からも無意味な装飾品やデザインが施されている「服」は多いものです.サラリーマンのスーツにネクタイや,女性のハイヒールもその名残ですね(なお,ハイヒールがヨーロッパの道端に溢れていた馬糞・人糞を避けるために作られたというのはガセです.例えば日本においても,女性の妖艶さを高めるために花魁が高下駄を履くという類似した文化があります).
機能性が低いのに着用され続けたという意味では,日本の着物もその典型です.機能性の低さは洋服の比ではありません.

服装がこんなにも身体動作の最適化を重要視するようになったのは,やはり近代以降の話なんです.
そして,その流れの中心にあるのは「スポーツ」,そしてそのスポーツの近代化にあります.

ということは,そこからこんなテーマが見えてきます.
「未来の服装は,現代のスポーツウェアによって推定することができる」

まず,先程出てきた「スーツ(厳密には,ジャケットとスラックスの組み合わせ)」ですが,これは近代化の波が押し寄せてきた18世紀に起源があるとされており,身分や立場を超えて同じ服を着ることで「自由と平等を司る」という考え方がベースあるのだそうです.
そして,この「身分や立場を超えて同じ服を着る」という考え方は,元はと言えば貴族がスポーツを楽しむ際にとっていた風習でした.領主であろうと将軍であろうと雇われ人であろうと,同じ服装でハンティングやポロといったスポーツをする.
これがその後,「スポーツ種目」や「チーム」によって作りが統一された「ユニフォーム」となります.
つまり,スーツというのは前近代スポーツにおけるスポーツウェアなのです.
もっと言うなら,“スーツを着るのが身だしなみ” というこの価値観こそ,「スポーツ化」している近現代社会において,同じ「フィールド」で「プレー」することを互いに示し合わせている現象であると言えます.
詳細は■人間はスポーツする存在であるとか■井戸端スポーツ会議 part 14「スポーツと資本論」を参照のこと.

スポーツウェアというと,近代スポーツが誕生した後に登場したものと見做されやすいのですが,そもそも,スポーツは近代以降に限った文化ではありません.前近代においてもスポーツの場で着用されていたものは,紛れもなくスポーツウェアです.
現代でもその名残が強いのがゴルフウェアでしょう.だいぶ少なくなりましたが,ゴルフをスーツ姿でやる人はまだ結構いるものです.
「スーツを着ていてもできるスポーツがゴルフ」というのは間違いです.もともとスポーツはスーツでやるものでした.

さらに,近代以降(19世紀後半)は多くの人が積極的にスポーツをする時代になりました.
なのでスポーツウェアも発展してきます.
この時代をもって「スポーツウェアの誕生」と見る向きがありますが,厳密には「近代スポーツ用の服装が誕生した」ということです.
この時代に着用されていた代表的なスポーツウェアが写真として残っています.
以下は,1900年頃のポロ(馬上球技)とテニスです(wikipediaより).
 

いわゆる,綿パンにワイシャツ,セーターというのがこの時代のスポーツウェアです.
ポロで夏場に着られることが多かったシャツが,何を隠そうポロシャツです.
今では日常的な服装として定着していますが,これはもともとスポーツウェアなんですよ.

ちなみに,ポロの選手がワイシャツの襟が風でなびかないようにボタンでとめていることにヒントを得て開発されたのが「ボダンダウンシャツ」です.よく,「ボダンダウンシャツはスポーツウェアを発祥としているから正式な場にはふさわしくない」と言われますが,上述したように,もともとスーツもスポーツウェアなのですから,近々気にしなくてもよくなる時代がくるでしょう.
セーターなどのニット生地は,当時の価値観からすれば「ダサくて品のない生地」だったでしょうが,伸縮性があるのでスポーツウェアとして発展してきました.その代表がジャージ生地です.

で,このスポーツウェアで用いられている「ダサくて品のない生地」を女性ファッションに取り入れて一躍有名になったのが,現代ファッションにおけるラスボス的存在のココ・シャネル氏です.あの「CHANEL」のシャネルです.
ココ・シャネル(wikipedia)
そして,「スポーツウェアを普段着・仕事着にしてみました」っていうのが,あの「シャネルスーツ」だそうです.
シャネルスーツ(wikipedia)
たしかに女性用スポーツウェア,例えばテニスウェアなんかに似ています.

なお,シャネル氏にはライバルがいました.
エルザ・スキャパレリというファッションデザイナーです.
NHK BSでもドキュメンタリーが作られていました.
シャネル VS スキャパレリ(BS世界のドキュメンタリー)
シャネル氏はスキャパレリ氏のことが嫌い過ぎて,パーティーで対峙した際に彼女のドレスを蝋燭の火で燃やしたとされています.
で,このスキャパレリ氏に至っては,出店デビューしたのが「スキャパレリ・プール・スポール」というスポーツウェアの専門店でした.
現代ファッション界の女王2人が,スポーツウェアの影響を受け,そこから着想を得ていたわけです.

その後も,スポーツウェアは「身体運動への追従性」と「着心地(環境への適応)」を追求し続けます.近代スポーツ,そして現代スポーツがそれを要求するからです.
最近はパフォーマンスアップを謳うものまで出てきました.

そうした過去のスポーツウェアの影響を受けているのが,現代の一般消費者用の服装とそのファッションと言えるでしょう.
代表的なのが,「タイトな着こなし」と,それに伴う「身体シルエットの露出」です.
だから現代ファッションでは,着用者に理想的体型を求めます.そしてその理想的体型とは,スマートで,かつスポーティーな体型であることが多い.
もちろん,そうしたファッションの流れに抵抗しているクリエイターやデザイナーもいるそうですが,一般大衆的にはそうした価値観を持っているわけです.

最近のスポーツウェアを顧みれば,「タイトな着こなし」にさらなる拍車をかけそうな流れにあります.
極めつけは「アンダーアーマー」に代表されるような,皮膚に張り付く近未来的なデザインと生地のウェアの開発です.『ドラゴンボール』のベジータが着てそうなウェアのことです.
こういうやつですね↓
UNDERARMOURのHPより
脚の方はというと,以前は下着・タイツとして知られていたものが高性能化され,もはやタイツと言えないような新しいウェアになっています.CW-Xとかが有名どころです↓
ワコールのHPより
よく「意外だ」と言われますが,実は私はアンダーアーマー系のウェアを登場当初から愛用しています.初めて手にしたのが2000年頃ですから,かれこれ20年近くになりますね.もともとはアメフト用のウェアとして販売されており,関西にいた当時は大阪・JR福島駅前にある「キュービークラブ」というところで入手していました.
あのストイックなデザインとは裏腹な快適な着心地に,「これぞスポーツウェア」と惚れ込んだのを覚えています.

学生時代や研究助手をやっていた頃は,チノパンにワイシャツであっても,その下はアンダーアーマーということが多かったです.
でも,あのロゴマークがワイシャツに透けて見えるのが嫌で,マジックペンで黒く塗りつぶしていました.そのうち予めロゴが黒く塗りつぶされた「高校野球用」なるものが登場しています.買う機会はなかったけど.
今は流石に常用していませんが,スポーツウェアになる際はたいてい着ています.

時は経ち,そのうち大学の後輩たちがアンダーアーマーのロゴが入ったリュックなんかを背負っているのをみるようになり,「え!?アンダーアーマーってリュックを売ってるの?」ってビックリしたくらいです.あれよあれよという間に,今では大規模な総合ブランドになってしまいましたね.

10年くらい前に.大学の同級生とこんな話をしたのを覚えています.
「これからはアンダーアーマーみたいなんを履いて,その上に短パンを履くんが流行するやって」
って言うもんだから,
「今でもそんな格好してるでしょ.僕もトレーニングの時はそれで行ってるし」
って返したら,
「ちゃうねん.それを私服で着るんやって」
とのこと.
「いやいやいや,んなアホな.さすがにアンダーアーマーに短パンで街を歩くことはないやろ」
なんてこと言ってたら,間もなくそれが普通になってきました.
https://kaumo.jp/topic/921より
やっぱり,スポーツウェアから日常の服という流れがあるようです.

ということは,いずれビジネス用の服装などに対しても,スポーツウェアを取り巻く「考え方」が影響してくることが予想されます.
もしかすると,将来は上の写真あるような,いかにも「スポーツウェア」を基にした服装が,ビジネス現場でも普通になっているのかもしれません.


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