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「崖っぷちの大学が生き残る茨の道」の追記

動画配信 Huluで「崖っぷちホテル!」っていうドラマをみかけたので,現時点までの3話分を見てみたんです.
主演の一人である戸田恵梨香さんは,以前から良い女優だなぁと思っていたので,それに惹かれたのもあります.

あと,「崖っぷち」と言えば,だいぶ以前に書いた記事に,
崖っぷちの大学が生き残る茨の道
というのがありまして,きっと境遇が現在の少なくない大学と似てるんじゃないかと思ったのも理由の一つです.

ドラマですが,3話で見るの終わっときます.
これ以上見なくてもいいかなって.
どうしても批判的になってしまうのですが,もうちょっと作り込んでほしいところです.

役者さんの演技に不満があるわけじゃありません.
戸田さんもそうですけど,渡辺いっけいさんとか鈴木浩介さんといった個性的な役者さんを使っているし(この3人の組み合わせって「LIAR GAME」ですね),厨房の2人(中村倫也さんと浜辺美波さん)もなかなか良かった.特に浜辺さんは強烈なキャラの役ですけど,「こういう本当に無垢な娘,実際いるよね」っていう不自然な自然さが出ているのは素晴らしい.今後に期待.
それだけに,どうしてもドラマ自体の作り込みの粗さを感じてしまいます.

内容が気に入らないってわけでもないんです.
崖っぷちの経営組織が,再起を目指して奮闘するっていうのには魅力を感じます.
現代の大学って,どこもまさにそういう状態ですので,シンパシーもある.まぁ,こっちの方は峠を越えたと思ったら滑って転んで谷に落ちてる状態で,もう再起不能ですけどね.

 

 

崖っぷちに立たされた経営組織が復活しようとする時,そこで大事にすべきことは「我々の仕事は何なのか?」という点であることも普遍性があって良い.いつぞやブームになったピーター・ドラッカーのマネジメント論で最も重要なところでもあります.
もっとも,少なくない大学経営陣はドラッカーのマネジメント論を誤読しました.
それについても昔記事にしてます.■教育現場,結局,ドラッカーはどうなった?

昔,「王様のレストラン」というドラマがありましたが,「崖っぷちホテル!」はそれと雰囲気や出演キャラがよく似ています.「王様のレストラン」を見たことがない若者たちには見る価値はあるかもしれません.
逆に言えば,王様のレストランを見たことがある者としては,もう一捻りしてほしいのが実際のところ.

でも,それだけじゃない.
今回の「崖っぷちホテル」の何が気に入らないのかっていうと,役者さんが自分の行動理由や思考をいちいちセリフで喋るんですよ.
いえ,これはこのドラマだけに限ったことではありません.たいてい,出来の良くない映画やドラマはそういうことをします.

例えば第3話では,戸田さん演じるホテル支配人は,視聴者向けにこんな独り言を言います.「役職をかけて競争っておかしいだろ!」って.
それはセリフでいうことじゃありません.そこに不満を持つ支配人の状況を映せば済む話だし,それが読み取れるようなシーンを撮れば済む.それに,あのタイミングでの発言もおかしい.くどさが出ます.

最近,「ルパン三世」も新シリーズが出ていますが,こちらも同じことをしています.
第2話にて,暗殺者に追われるルパンと連れの女がこんな会話をするんです.
「ルパンは私を守っている.なぜ?」
「そういうのは言わぬが花ってやつなんだよ」
それに対し,「ルパンは私とエッチがしたいの?」と女は問い続けますが,ルパンはあぁだこうだと否定します.
で,さっき「言わぬが花」と言ってたくせに,ルパンは第2話の決めゼリフとしてこう言い放つんです.
「だけど感謝することはないぜ.俺がお前を守るのは,そういう俺が好きだからさ」

ルパン三世がそういう美意識の持ち主であることは,ルパンファンなら百も承知です.
それに,ご本人も言うように,そういうのはセリフで説明してはいけないのです.だから「言わぬが花」なんですから.
ルパンの行動や判断を粛々と描けば,ルパンが一見女好きなように見えて,実はどういう思考パターンをしているのか感じ取れるものです.

だけど,こういうセリフを吐かせてしまう.
こういうのって視聴者への配慮とは違うと思うんですよね.むしろ視聴者はバカにされているのかもしれない.ルパンがどういう奴なのか知らない人のために,第2話あたりで解説しておこう,ってな感じで.
こういうので一気に冷めてしまいます.

大学教育においても,「分かりやすい」が正義のような風潮があります.
「考えぬく力」を育む上でのわかり易さならまだしも,物事の正否を前提として教えるわかり易さが求められるんです.その正否に至る思考プロセスこそが大事なのに.
それと類似していて興味深いのですが,映画やドラマもそういう圧力と力学が働いているのかもしれない.そんなことを考えさせられました.
つまり,先に伝えたいメッセージがあって,そのメッセージを正確に伝えるために分かりやすく仕立てられた映像と音声が求められているんじゃないかと.

作品をどのように解釈するのかは受け取る側に委ねられているはずで,作者が意図しない解釈も当然あり得るんです.
もちろん,作者や演者に「こういうふうに解釈してもらいたい」という意図はあるのでしょうが,それをダイレクトに見せるのは野暮というもの.

ところで,「良いホテルとは何か」を考えていたら,高校時代を思い出させられました.
今から20年近く前の話です.
学校が休みの時に友達と徒歩旅行をしたことがありまして,愛知県新城市の山間部を歩いていて夜が更けてきた時のこと.
寒い季節だったし,天候も怪しいのに野宿できるような場所がないと焦っておりましたら,道に「民宿」の看板が.
「民宿だったら安く泊まれるんじゃないか」と,その夜は安全策をとることにしたんです.
それに,その日が旅程としては最後の一泊だろうと思っていたので,少しくらいお金使ってもいいかなって.

玄関にお邪魔して,予約していないけど泊まれるか? お値段はいくらなのか? を聞いてみたんです.
そしたら,着物を着た女将さんみたいな人が現れ,今日はお客さんはいないし,1泊5000円くらいで大丈夫とのお返事をいただきました.ただ,予約していないから食事が満足に出せないことと,お風呂は今から準備するので直ぐには入れないとのこと.
こちらとしては「野宿するかどうか」で迷っていたわけですから,「屋根があればOKです」と言ったのを覚えています.5000円ならギリギリ財布にあったし.

ところが,高校生の僕らとしても,ここが安い民宿ではないことを少しずつ感じ取ります.
まず,建物は民宿なだけに大きくないですけど,手入れと掃除が行き届いていて,趣がある.これは僕たちみたいなアホな高校生でも分かります.
次に,「食事が満足に出せない」とか完全に嘘.鴨鍋を中心とした豪華な夕食が出てきたんです.並べられていくお皿を前に,僕たちは目を見合わせました.「これヤバくね?」って.
鴨鍋は部屋まで女将さんが出てきて作ってくれたのですけど,いやいや,僕たちそんなサービス受けた経験ないし.こんなの出世してからの話だと思ってたから.
そして,お風呂は広くはないけどきれい.
一日歩いた疲れがとれます.

寝る前に,天井見上げながら「なあ,ここって本当に5000円なんかなぁ.絶対高級旅館だよなぁ.明日とてつもない値段請求されたらどうしよう.足りなかったら皿洗いとか風呂掃除しようか」って不安を抱えながら,それでも疲れ切ってたので直ぐに就寝.

で,次の日の朝.
これまた美味しい朝食もしっかりいただき,料金を支払おうとしたら,女将さんが「お代は結構です」って.
大変な徒歩旅行をしているんだから・・,などと言ってましたが,それにしても,こっちは美味いもの食って飲んでして,別に世界を救う旅をしているわけでもないのに,タダはないだろうと.ドラクエの宿屋でも50Gは取ってくる.
それでもお代は受け取らないということで,おまけに丁寧に見送っていただけました.

宿を出た後,歩きながら話したんです.
社会人になったら,またここに泊まりに来ようって.
その時,ちゃんと5000円を返そうって.

現代はインターネットが普及し,宿泊についても「楽天トラベル」が便利ですよね.
なので,その民宿がまだあるのか.どういう民宿なのか調べてみました.
そしたら案の定,その民宿の評価はすこぶる高い.めっちゃ高い.
だからでしょう,楽天トラベルでも賞を受賞しているし.しかも,ほらみろ,夕食込みだと結構高いじゃないか!
そんなお宿が「浮浪してる高校生をタダで泊めた」なんて話が広まるとマズいので,とりあえず名前は伏せときます.調べりゃ直ぐにわかるけど.

高校生から宿泊代をとらなかったから「良い宿泊所」だと言いたいわけじゃないんです.
でも,その時に受けたサービスは「大人になった時にまた来よう」って高校生ツーリストに思わせる気の利いたおもてなしであり,僕たちの青春時代の思い出になっているんですよ.