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【国際学習到達度調査】日本の子供の読解力低下について

PISAの「読解力」が低下したらしい


■PISAで読解力低下 長文に触れる機会作りを(毎日新聞 2019.12.5)
3年ごとに行われる経済協力開発機構(OECD)の2018年国際学習到達度調査(PISA)で、前回調査に続き日本の子どもの読解力の低下傾向が示された。
(中略)
PISAは日本の教育政策に大きな影響を与えてきた。03年調査でも読解力や数学の順位が大幅に低下し「ゆとり教育」が原因と指摘された。それを機に、全国学力テストが始まり、学習指導要領が改定されて授業時間が増えた。
その後、順位はいったん回復したが、前回は再び低下に転じて参加国・地域中8位となり、今回はさらに15位まで急落した。
とりわけ日本の正答率が低かったのは、ある程度長い文章から求められた情報を探し出したり、書かれていることの信用性を評価して事実なのか意見にすぎないのかを判断したりする問題だ。
専門家は、低下の原因として、スマートフォンやSNSの普及で子どもの読み書きやコミュニケーションが短文中心になっていることを挙げる。調査では、日本の子どもがゲームやインターネット上で友人らとやりとりするチャットに費やす時間の長さも指摘された。
一方で、小説や伝記、ルポルタージュ、新聞などまで幅広く読んでいる子どもは読解力が高いことが示された。長文に触れる機会を授業や課外活動で増やしていく工夫が求められる。

国際学習到達度調査(PISA)については,国立教育政策研究所にその調査結果が掲載されています.
国立教育政策研究所(ホームページ)

そこから図表を引用します.


まず,今回の2018年調査の結果はこちらです.
PISA2018年調査結果(国立教育政策研究所HPより)



次に,前回の2015年調査の結果が以下です.
結果の並び順が統一されていないので注意してください.
PISA2015年調査結果(国立教育政策研究所HPより)


事情をまとめると以下のようなこと.

(1)日本の子供の「読解力」が,前回調査に続き低下している
(2)ランキングも前回6位から,今回11位へと低下した
(3)読解力の前回得点は516点,今回は504点であるため,実際に点数も低下した
(4)科学的リテラシーと数学的リテラシーは,依然として世界トップレベル





読解力低下の原因として分析されていること


上述した毎日新聞の社説にその分析が掲載されていますので,それを以下に引用します.
専門家は、低下の原因として、スマートフォンやSNSの普及で子どもの読み書きやコミュニケーションが短文中心になっていることを挙げる。調査では、日本の子どもがゲームやインターネット上で友人らとやりとりするチャットに費やす時間の長さも指摘された。(毎日新聞 2019.12.5)

その結果を国立教育政策研究所もグラフにして示しています.
以下の通りです.




つまり,日本の子供たちは「携帯電話・スマホ」「ポータブルゲーム」を用いることは多いが,「パソコン」は使わない傾向にあるのです.

それゆえ,読み書きやコミュニケーションが「短文」で「分かりやすい」ところに流れてしまい,長文を読まない,書かない,扱わないという生活を送っている可能性が高いんです.


かつて,「iPadで仕事ができる」とか「スマホで全部済ませられる」と言い出すバカが大量発生したことがありましたよね.
あれ,ほとんどがメーカー側の誇大広告ですけど,それを真に受けて,本当に仕事をiPadやスマホだけでやろうとした人もいました.

実際にやっていると豪語する人もいましたが,そういう人は,ほぼ100%無能.
そんなバカバカしさを記事にしたこともあります.
もう7年前の話です.
iPadの実力


これと同じ現象が,日本の教育界や子供たちの間で発生している危険性があります.

先日の記事で,ユヴァル・ノア・ハラリ氏の新刊である『21 Lessons(トゥエンティワン・レッスンズ)21世紀の人類のための21の思考』を参照しながら,未来の教育像について語りました.
『21 Lessons』を読む|これからの人類の教育について


そこでの課題が,もろに現れたのが今回の調査結果だとも言えます.

日本はもっと,子供(生徒や学生)にパソコンを使った学習環境を提供し,複雑な文章を読まなければいけない状況に追い込むべきです.

このままでは,「消費者」としてのユーザーを増やすだけになってしまいます.


ある大学に勤めていた時,そこの教員間で,
「学生からのレポート提出を電子ファイルのみにするか?」
でもめたことがありました.

ある先生が頑なに,
「パソコンを使えない学生がいるのだから,紙での提出も受け付けるべき」
と言い張って,結局,できなかったんですけど.

でも,そんなことを続けていたら,いつまで経っても学生はメールや添付ファイルといった作業システムを使えないままです.

これに対し,
「学生にメールの使い方や,添付ファイルの操作を教えよう」
とか言い出す人も出てきて,実際にそんな授業を大学でやってたりします.

冗談じゃない.
そんなものは基本スキルとして学生が自分で身につけておくことです.
それこそ,友達に聞けばいい.

文字が書けない学生がいるからって,大学で字の書き方,鉛筆の持ち方を教えるのか?というのと一緒です.


これを聞いて信じられない人もいるかもしれませんが,現在の大学生のなかには,いまだに「メール」や「添付ファイル」が何なのか理解していない人が多いんです.

でも,もちろん全員じゃない.
結果として,一部のよく知っている学生がそのスキルを発展させることができるのに,その他大勢はというと,SNSのアプリ内のことはよく知っているけど,応用をきかせたネット作業が全く出来ないという状態が発生しています.





読解力=国語力ではない


この国際調査を解釈する上で,もはや鉄板ネタになっているものですが,科学的リテラシーや数学的リテラシーとは違い,「読解力」は学校の教科としてイメージしやすい「国語」の能力を測っているわけではないのです.

実際に,どういう問題が出ているのか?

それも国立教育政策研究所のホームページに掲載されています.
国立教育政策研究所(ホームページ)

以下のような問題です.


こんな問いがあって・・・.


それに対し,以下のような文章(ブログ)が提示されます.


この中から,問いである,
「ブログによると,教授がフィールドワークを始めたのはいつですか」
に回答するというもの.

ブログ内に「この九ヶ月間調査してきた・・・」という記述があるので,「9ヶ月前」であることが正解になります.


他にもこんな問題が出ます.


問題文には,
右の『文明崩壊』の書評を読んで,下の表から,次の問いの答えをクリックしてください.

という課題が提示されています.


以前,大人の学力調査である「PIAAC」を記事にしたことが有りました.
偏差値45の日本人は日本語が理解できない

そこで示した「読解力」の問題例が以下のようなもの.
大人である皆さんも,実際に解いてみてください.

保育園のルール
私達の保育園へようこそ!おおいに遊び,学び,そしてみんなと仲良くなれる1年であることを願っています.少し時間を割いて当保育園のルールを確認してください.
*お子さんを午前9時までに連れてきてください.
*お昼寝用に,小さな毛布や枕と小さなぬいぐるみ,あるいはそのどちらかをお持ちください.
*お子さんに楽な服装をさせ,着替えをお持ちください.
*宝飾品類やお菓子は禁止です.誕生日の場合は,子供に与える特別なおやつについて担任と話をしてください.
*お子さんにはきちんと服を着せてから,お越しください.パジャマではいけません.
*フルネームで署名をお願いします.これは入園に必要な規則です.ご協力お願いします.
*朝食は午前7時30分までご用意しております.
*お薬をお持ちになる場合は,ラベルが貼ってある元の容器に入れたままにし,各教室に置いてある与薬依頼表に記入しなければなりません.
*質問があれば,担任または山田・宮内にお聞きください
【問題】
子供は,遅くとも何時までに保育園に来ればよいですか?


正解は,「午前9時まで」です.


PISAもPIAACも,テスト問題が類似しています.
そして,「読解力」の調査が,どのようなものか分かりますよね.

印象としては,「文章が複雑で長い」ということ.
上述した毎日新聞の社説にもあるように,「長文」をしっかり読めることが大事になってきます.

と同時に,実は日本人の3割が,上記のような問題が解けないことも判明しています.

日本人の3割くらいは,「長めの説明文」とか,私が書いているような長文ブログを読んでも理解できないんです.
ざっと目を通したとしても,印象的なところだけで判断したり,間違った解釈をしてしまう人が,必ず3割くらいいるわけですよ.

「そんなバカな」と思う人もいるかもしれませんが,そういう人は,あなたの身近なところに「日本語が読めない人」がいないからそう思っているだけです.

でも,こんなのを聞いたことがありませんか?
家電メーカーがどんなに頑張って「取り扱い説明書」を書いても,ちょっとでも文章が長いと「読む気がしない」と言い出す人.
取り扱い説明書を読めば解決するはずのことなのに,面倒くさがって読まず,挙げ句に商品やメーカーのせいにする奴っていますよね.

それは気分的に「面倒くさい」とか,物理的に「文字が小さい」からではありません.
「読解力」がないから,面倒くさいと思ってしまうのです.


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