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菅首相も,そろそろ自分の失態を認めた方がいい段階になったと思うよ

例の日本学術会議の件です


まだやってるんですね.
こちらとしても立て続けに記事にした話題でもあるから,一応は後日談をフォローしていました.

でもこの騒動,収まる様子がありません.

むしろ,「日本学術会議は左翼の巣窟だ! 税金が無駄に使われている! この際に徹底的にメスを入れろ!」という話でニュースサイトのコメント欄も大騒ぎです.


尤も,政府・自民党としても,ネット世論をその方針で誘導するしか思いつかないんじゃないかと.

けど,あんまり騒ぎ過ぎると逆効果になるかもしれません.

だってそもそも,事の発端として,そして原理原則的に「悪い」ことしているのは政府・菅首相ですから.

正論で責められたらお終いなのですから,さっさと謝罪しておいて,
「あらためて,日本学術会議の在り方を問い直します」
などとリセットすればいいのに.

自分の失態を絶対に認めたくない,意地クソの悪い政府・官邸・自民党,そして首相のキャラクタが出ているようで不快です.

実際,そろそろ菅首相の方がグロッキー気味になってきました.

菅首相、推薦リスト「見てない」 会員任命で信条考慮せず―学術会議会長と面会も(時事通信 2020.10.9)
首相によると、会員任命を最終的に決裁したのは9月28日。「会員候補リストを拝見したのはその直前だったと記憶している。その時点では最終的に会員となった方(99人)がそのままリストになっていた」と述べ、6人の排除に関与し得る立場になかったと強調した。6人が政府の会員候補リストから漏れた経緯や理由、誰が判断したのかが引き続き焦点となる。

いやいやいや,この人何言ってんの?
意味不明ですから.

任命者である菅義偉首相,「あなた」が学術会議の会員を任命する立場であり,そして今回,前例無き「拒否」をしたって話でここまで盛り上がっているんですよ.

それがここにきて,
「私が決めたんじゃない.私が知らないところで既に決まってたんだ」
などと言い出しました.

オイオイ,どうすんの,これ?

ネトウヨの人たちも,どうすんのよこれ?

今回の「任命拒否騒動」は,「菅首相が学術会議の在り方にメスを入れるため」にやったんじゃないの?
もともと,以前から学術会議の推薦会員が気に入らなかった,って話で息巻いてたじゃないですか.

それを,「違う」ってことにするんだ.
もちろんこれは,菅首相サイドが,
「かなりヤバいことしちゃったんだな,俺・・・」
っていうことでビビってトンズラしようと思っているんでしょうけど.


でも,この話題はそんなことお構いなしにどんどんエスカレートしちゃってます.
今日もこんなニュースがありました.
学術会議側「文書改ざん」「違法性」(TBSニュース 2020.10.11)
日本学術会議の任命をめぐって、菅総理が105人の推薦者リストを「見ていない」と説明したことについて、学術会議側から「文書の改ざん」や「違法性」の指摘が相次いでいます。
菅総理大臣は9日、日本学術会議からの推薦者リストについて、任命されなかった6人を含む105人のリストは「見ていない」として、先月28日に見た時点で99人になっていたと説明していました。
これについて11日、学術会議の元会長で東京大学の大西隆名誉教授は、JNNの取材に対し「学術会議は総理に対して105人を推薦をしている。総理に伝わる前に他の誰かがリストから6人を削ったのであれば、文書の改ざんとなり大きな問題」と述べました。


もはや,政府内部では文書の改竄が「平常運転」であることを利用しているようですね.

菅首相の違法性よりも,官僚か誰かが文書改竄してました,ってことで終息させることを狙っているのでしょうか?
世も末です.


一連の話が読めない人もいるかと思いますので,ここで整理しておきます.

まず,最も根本的な話として,首相が日本学術会議から推薦された会員のことを,任命はできても,拒否はできません.
それを今回,「拒否」しちゃったという話が事の発端なのです.

その後,自民党や官邸は事件の火消し・誤魔化しのために,
「日本学術会議という組織に問題があったので,そこにメスを入れるために,菅首相は任命権を行使して,反自民党的な政治活動をしている推薦会員を拒否したんだ」
という世論誘導を始めたわけですね.

しかしこの論法は,頭が弱い人や,情弱な人を騙すことはできても,物事をきちんと整理して理解する人には通用しません.

繰り返しになりますが,首相には会員の任命はできても,拒否はできないからです.
つまり,首相は日本学術会議の会員に対して「拒否権」は有していません.
あくまでも,儀式・形式としての任命者であり,推薦するのは学術会議の方です.

日本学術会議法に,その旨が明記されてあります.
日本学術会議法 第三章 第七条2には,こうあります.
会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
日本学術会議法(PDFページ)

ちなみに,ここでいう第十七条はこちら.
日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。
日本学術会議法(PDFページ)

よく,ネトウヨみたいな人たちが「会員となる推薦理由を教えろ!」と叫ぶことが多いですが,この第十七条がそれです.
つまり,「優れた研究又は業績がある科学者」であれば会員になれます.

よって,「プライベートで左翼的な政治活動をしている」だとか,「ネットで右翼的なユーチューブ配信をしている」といった「社会的・個人的な活動」は考慮されません.


さらに言えば,学術会議の会員として「不適当」な者がいたとしても,首相が当該人物を退職させることは出来ません.

日本学術会議法の第二十六条に,こうあります.
内閣総理大臣は、会員に会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる。
日本学術会議法(PDFページ)

つまり,内閣総理大臣自らが「こいつは会員として不適当だから辞めさせろ」ということはできないのです.
あくまでも,学術会議側から「コイツは不適当です」との申出が必要です.


「なんでこんなに政府や総理大臣の権限が及ばない組織になっているんだ!」
って不満を持つ菅信者や自民党支持者もいるかもしれませんね.

でも,そんなの決まっています.

お忘れですか?
これだけ大騒ぎするに至った大元の理由です.

政府・国家権力が学術に口を突っ込まないようにするため

です.
そして今回,菅首相はその重要なルールを犯したのです.
だからこんなに大騒ぎになっているんですよ.

よく,この学術会議会員の任命権については「天皇による総理大臣の任命」と同じものだと解釈されますよね.
宇都宮健児氏 天皇に総理大臣の任命権はあるが拒否権はないのと同じ…菅首相の拒否(デイリー 2020.10.4)

これに対し,
「天皇には国政権限がないから形式としての任命になっているんだ」
という意見があるけど,それを言い出したら学術活動も同じでしょう.

学術活動の良し悪しや判断を,民主主義的な手続きを経て選ばれた代表(すなわち総理大臣)が正しく理解,解釈することはできません.

そもそも学術は,カール・ヤスパースが述べているように,国家や民族を超えるものです.
愛国右翼の人たちからすれば,そんな学術活動が気に入らないかもしれませんが,それが世界的・人類的な「学術活動に対する捉え方」ですので,どうかそれなりに納得してください.


たかが一国家のトップごときが,軽々しく口を挟んでいいものではありません.
それ故,その存在には「独立性」が求められているわけです.

これを蔑ろにしやすいのが,独裁政治や君主政治であり,そしてなにより全体主義やファシズムです.
知識や技術は,国家・国民のためになるものを生み出すべき,っていう考え.
これは一見すると「善い」考えのように思うかもしれませんが,エスカレートしていくとかなり危険です.

そんな人間社会や国家にはなりたくないよね,ってことで採用されていたルールや考え方なんですけど.
こういう経緯を知らない人が「俺が気に入らないから改革だ!」と言い出します.


これも過去記事で書いていますが,別に私は日本学術会議の現在の在り方に何の問題もないと言ってるわけじゃありません.
ちょっとくらい政治家が口を出せる部分があってもいいと思う.

でも,だったらこんなチャランポランなことしてないで,最初から「学術会議の在り方を問い直したいと思います」と政治的議題にして,きちんと議論すべきでしょう.
それが代議制民主主義である日本のルールなのですから.


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