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JAを目の敵にしている農家とは

JA擁護と捉えられかねない記事を連投しているわけですが,繰り返しになりますが私はJAについては是々非々です.

その必要性は理解しているし,実際のところお世話になっているし,その存在にとても助かってもいます.
ただ,もっとこうしてくれたらいいのになぁと不満というか要望みたいなものもあったりするわけで.


その一方で,農家のなかにはJA(農業協同組合)を目の敵にしている人もいます.
結構います.
JAなんて悪の組織だ,必要ない,アイツらのせいで日本の農業がダメになっている,などと罵倒する農家も多いものです.

そうした声を聞いたり,批判の様子を目のあたりにすると,てっきり「なるほど,農家にとってJAというのは,敵対的な存在という側面もあるのだな」と解釈してしまう人もでてくるでしょう.
しかし,事はもっと複雑だし,本音の事情は表に出しにくいものであったりします.

今回は,そうした「JAを嫌う農家」について,農家の一人として,顔を出して表立って堂々とは喋れない,だけど実際のところこういう事情があるんですけどね,っていう話をしてみます.

JAを嫌う農家は,大きく分けて3タイプ.
(1)JA職員の不正行為を知っている,または理不尽な対応に怒っている人
(2)JAと競合関係にある農業企業の人
(3)農業の技術力および経営能力が残念な人


(1)については,むしろ「JAが嫌い」というよりは,単純に人間関係や仕事上のトラブルと言っていい話です.
私からすれば,JAという組織云々の問題ではないと思います.

学校のいじめ問題を,「学校内でのトラブル」と捉えるのか,「一般的な犯罪行為」と捉えるのか,みたいな違いです.
? むしろ分かりにくいって?

そうですね,例えばコンビニのローソンとかで,バカな店員がアイスクリームの冷凍ケースに入って寝転んでる様子を写メしてSNSにアップした,みたいな話があったじゃないですか.
あれを見て,「これだからコンビニの店員はダメなんだ.ローソンは悪の組織だ,ローソンはさっさと潰れろ」って言っているようなのが,この(1)のタイプの農家です.

気持ちはわかるんですが,アイスクリームの冷凍ケースに入ってバカをやる店員がいたことと,ローソンというコンビニ・企業の存在意義とか社会的悪影響とは,直接的にはつながらないですよね.

これと同じで,JA職員がJAという組織のなかで悪行をすることと,JAの存在意義とは別の話です.
これが結構ごっちゃになって流布されていることが多いと思います.


(2)については,そりゃ「競合」なんだからネガキャンするよね,ってことです.
ローソンがセブンイレブンのことを「とても良い会社です.私達の商品より優れているし,私達より社会的価値の高い企業ですね」などと積極的に言うことはない,ということと同じです.
そういう農業企業が,自分たちのほうがJAよりも優れていて,社会的価値が高いことをアピールするのは当然でしょう.


さて,問題となるのは(3)の農家です.
私自身,農業経営を始めて4年になり,まぁまぁそれなりに自信をもって「農家でござい」と人前に出られるようになったからこそ,ちょっと厳しいこと言いますね.

JAと具体的なトラブルを抱えているわけでも,JAと競合する農業企業でもないのに,JAのことを目の敵にしている農家さんて,私の評価としては「栽培技術や農業経営の能力が低い農家」なんです.
もっとはっきり言えば,自分の不甲斐なさをJAのせいにしている農家さんです.

栽培技術が低いから,JAが要求する「規格」の商品を出せない.結果として,収入が少ないという状況になります.
それが不満というわけ.
自分がJA規格の商品を出せないことを棚に上げて,「規格が厳しすぎる.農業現場の苦労をわかっていない,わかろうともしない.かかる経費に見合った価格で買い取ってくれない」と言い,結論として「JAは農家を守ろうとしてない.JAのせいで日本の農業は衰退している」などと叫びます.

お気持ちは痛いほどわかるのですが,そういう不満をJAに向けたところで...,という話.
先日の記事である,
でも詳しく取り上げましたが,そもそも「JAが価格を決めて買い取っている」というのは事実とは異なります.
JAとの取引をまじめに向き合っている農家なら分かるはずなのですが,結構なベテラン農家でも勘違いしている人が多いんです.

JAは,品物の集荷・販売をサポートしてくれているに過ぎません.
むしろ,(これはよくネット記事などでも知られるようになったが)全国的にほぼ赤字状態で集荷・販売サービスを格安展開してくれています.
※なお,この集荷販売サービスの赤字を,金融サービスで補填している状態と言われています.

JAを通さずに,直接,市場や小売店に出品してもいいんです.
それをやっている農家や企業はたくさんあります.それが上述した(2)の人たちです.
実際,経営能力が高ければ,JAを通さずに商品販売を展開してやっていけます.
JA規格よりも魅力的な商品を出せれば,価格も自分次第で高く設定できますので.

でも,こうした自前の出品は,輸送とか販売労務などの経費が結構高くつくので,実際のところJA出荷の方が諸々含めてお得だったりします.
「農業はJAに頼らざるを得ない」というのは,ここを指して言われることが多いです.


そうなると,JA出荷をベースとする農家の経営戦略は自動的に決まってきますよね.
私も事業継承してから後,ひたすらここに注力してきたわけです.
すなわち,科学的根拠と再現性のある栽培技術の確立,および,経費削減の徹底です.

農業は,資材費,人件費,エネルギー費,が主なものですので,これを徹底的に下げるしかありません.
逆に,商品価格は自分たちではどうしようもないですし,これはJAにだってどうしようもないことです.
「値段が安い」「規格が厳しい」などと不満を口にしても無駄ですから,自分がアプローチできることだけに集中すべきなのです.

そして,徹底して経費を削減しつつ,ギリギリでJA規格の商品を作る栽培技術を研究することです.

「より良い農作物をつくる」という目標は掲げるものの,実際にはJA規格ギリギリの商品を大量生産することが大事なのです.
JA規格より優れたものをいくら作っても,価格は同じですから無駄になっちゃいます.
より良い商品を出荷したから値段が上がるというシステムではないのですから.

これについてさらに言い添えると,「より良い商品を出荷すれば市場の評価も上がって価格が上がる」と思っている農家さんもいたりします.
品物にもよるかもしれませんが,JA規格で出荷している以上そんなことありません.


長々述べてきましたが,ようするにJA本来の役割とか,農作物の市場流通の仕組みを知らない残念な農家が,なんか吠えてる,っていう程度のことだったりします.
すみません,こんな言い方をするとムカつく人もいるでしょうが,明後日の方向でJAの存在意義論とか日本の農業の改善策が語られる方が遥かに有害だと思います.

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