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偏差値40の大学生は「普通の日本人」です|または,日本人の3割は日本語が読めない

今回の記事は,誰に向けたものか自分でも分からないのですが.
多分,大学教員とか大学生とか,あとは受験生・高校生あたりが,なにかの参考になるかと思います.

(1)偏差値とは何か


本題の前に,偏差値について解説しておきます.
大学や学生の学力レベルを評価する指数として,「学力偏差値」が普及しています.

一般的には,学校や予備校・塾などが,自分とこの生徒の模試成績を元にして発表しているものを指します.

意外に思われるかもしれませんが,大学教員には「偏差値」がどのようなものか知らない人が多いです.
なんかよく分かんないけど,「うちは50らしい」とか,「70くらいでしょ?」とか,「去年より5ポイント下がったらしいよ」っていう話題にはするけど,どうやって算出しているのか知っている人はほとんどいません.


偏差値は,それを算出するための母集団(生徒たち)が違えば異なります.
ベネッセや河合塾などが代表的です.
大学偏差値一覧(ベネッセ)

塾の生徒たちの模試成績を元に偏差値を出して,その大学に入学できた生徒の値が当てはめられているようです.
ちなみに,偏差値の算出式は,
wikipedia「偏差値」より
であり,学力偏差値としては,

その生徒の偏差値 = 10 ×(その生徒の点数 − 全生徒の平均点数)÷ 標準偏差 + 50

で求められます.

母集団が違えば・・・,ということですが,大学進学を目指す生徒や,予備校や塾に通う生徒の学力レベルの差は小さいものです.


そして,この偏差値は以下のようにして表すことができます.
ここでは,仮に「100名」の生徒が理想的な正規分布に従った場合を示しました.

この人数の割り合いは,標準偏差に基づくものです.
以下の図は,ウィキペディアからの引用です.
wikipedia「標準偏差」より
人数配分を,おおよそ対応させています.



そして,この標準偏差を元にして作成しているのが「偏差値」ですので,学力偏差値として表すと以下のようになります.
平均値が「偏差値50」になります.
そして,標準偏差1つ分ごとに,10移動していきます.
つまり,偏差値40〜60が,標準偏差の「−1σ〜1σ」になるわけです.

−1σ〜1σには全体の約68%が入りますから,この図では,青と紫の部分に68名分が表示されている,ということです.
(なお,3σ以上は0.1%になるので,本来なら1名以下なのですが,便宜上1名を表示させてもらっていますので,ご了承ください)





(2)大学を受験する人は,日本語が読める日本人だけ


上記の図を見ると,
「偏差値40の大学は底辺の人間を相手にしているんだなぁ」
とか,
「偏差値40の学生は社会の底辺」
などと捉えがちですが,それは間違いです.

そもそも,大学受験ができる人は,日本の社会のなかでは学力レベルが上位の人だけです.
それも,大学受験をするにあたって,問題文や課題作業を示した「日本語の文章」をきちんと理解できる人に限られます.

そんなの当たり前じゃないかと思われるでしょうが,こういう「ブログ」を読めている日本人は,全ての日本人のなかでも「70%」しかいません.
逆に言えば,日本人の30%は,日本語がきちんと理解できないのです.
これは別に,親が外国人だとか,帰国子女が増えたというわけではないのです.

この話題は,昨年のベストセラーにもなっている2つの書籍に詳しく書かれています.
興味のある人はこちらをどうぞ.
 

しかも,その調査は「最近の子供」を対象にした学力調査などではありません.
PIAAC(国際成人力調査)と呼ばれる,OECDが行った調査結果です.
私も以前,この調査結果を記事にしたことがあります.
PIAACとPISAの結果の考察

ここで著者らが着目しているのは,「日本の成績が他国より優れている」ということではありません.
テスト結果そのものです.

例えば,こんなテストがあります.
皆さんは,以下の文章(指示)の意味を理解できますか?


遺伝子組換え食品に賛成の主張と反対の主張のいずれも信頼できないと主張しているのはどの本ですか?


実際のテストでは,上記の指示を元に,リストの中から該当する本を選ぶというものです.
それにより「読解力」を評価しています.

ところが,このテストに約30%の人が間違うのです.
もちろん,テストではこの文章1つだけではなく,複数あるものを平均して評価しています.
その平均正答率が70%です.

試しに,PIAACの「読解力」の問題例を紹介したサイトがありますので,そちらもご確認ください.
国際成人力調査(PIAAC)問題例(国立教育政策研究所)
これらの問題に,日本人の3割は不合格になるんですよ.


こんな高度なブログ記事を読んでいるようなハイスペックな皆さんにとっては信じがたいかもしれませんが,世の中には「簡単な日本語を解する」ことはできても,「複雑な文章を正確に読解できる」人は7割しかいません.

しかしこの,7割の正当率という日本の成績は,世界トップレベルです.
他の国では約50%になります.


大学教員の間でこんな話題がありますよね.
「近頃,日本語が通じないんじゃないかと思う学生が増えましたよね.やってられないよね,アハハハ(笑)」

笑っている場合ではありません.
それは本当なのです.



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(3)大学を受験できているのは上位7割の日本人


そんなわけで,日本人の3割は「複雑な文章」を理解できないのです.
これについて「やっぱり信じられない.テスト方法に問題があったのでは?」と思う人もいるでしょう.
この私のブログは,大学生や大学教員,研究者などにたくさん読まれているので,なおさらそう思われるかもしれません.

しかし,「平均的な日本人」を,皆さんは知らないからそう思うのです.

このブログでは,「いじめ」などの教育問題について考察することもありますよね.
過去に何度か紹介している,和田慎市先生とも話題にしたことがあるのですが,教育問題についてメディア報道や有識者の意見がトンチンカンなのは,彼らはなんだかんだで「エリート」であり,平均的な日本人の実態を知らないからです.
学校教育対談

偏差値40の大学やそこの学生を「社会の底辺」と評価するのも,その現象の一つでしょう.

ここで,大学に入学している人物像を推測してみたいと思います.
前掲した図をもう一度お見せします.

この図は,日本人全体の「学力(読解力)」を推測し,偏差値にしたものです.


しかし,これがそのまま「大学入学者の分布」にはなりません.
なぜなら,「複雑な文章を理解できない人」
つまり,下位3割の日本人は大学受験ができないからです.


ですから,実態としては以下のようになります.
下位3割は,「受験しない層」として,偏差値を算出する母集団には入りません.


こういう集団は,そもそも予備校や塾には通わないのです.
高校としても,進学校や進学クラスにはいません.


ただ,いくつか考慮しなければいけないのは,ここ最近増えている「AO入試」や「スポーツ推薦」「指定校推薦」の学生には,「複雑な文章を理解できない人」が含まれているという点です.

AO入試やスポーツ推薦,指定校推薦がダメだと言っているわけではありません.
ですが,そうした学生の中には「複雑な文章を理解しなくても入学できちゃった人」がどうしても含まれてしまいます.


ですので,より現実に近い「受験しない層」の状況は,以下のようになるかと思います.

このように,本来であれば大学受験できるような能力がない人が,特別な受験方法で入学しているわけです.



その結果,「実際に受験した人たちによる偏差値」として,以下のような正規分布が描かれます.
※なお,以下の図では,削った30%分を100人分として修正しています.


これを見て分かるのは,ここでの偏差値50(平均)は,日本人全体の時の「偏差値55」くらいになっているということ.


そして,偏差値40〜45の位置は,日本人全体の時の「偏差値50」つまり平均なのです.
以下をご確認ください.ここが日本人全体の時に平均だったところです.


実際,私は偏差値40の大学で教員をしていましたが,そこにいる学生は「普通」でしたよ.
もちろん,偏差値60とか70の大学を卒業し,教員になった人たちにとっては「社会の底辺」に見えるでしょうけど.

偏見や先入観を排除して,彼ら「偏差値40」の学生たちを観察してみてください.
ほら,普通の日本人でしょ?
むしろ,平均以上に聞き分けのある若者だと思います.


上記の図をより実態に近づけるために,もうちょっと修正してみましょう.

1つ目は,そもそも,偏差値30以下の大学は非常に限られていますし,そういう算出ができません.
2つ目は,水色の学生は上記のような位置に入学はせず,私立大学の特別受験によってバラバラに入るという点です.

なので,以下のようになります.


こうなってくると,「あぁ〜,分かる分かる」と実感が湧く先生方も多いのではないでしょうか.
「日本語が通じない学生がいる」というのは,こういう理由です.


さらにもっと実態に即せば,そもそも日本の大学進学率は約50%ですので,ここから20%分を削る必要があります.

つまり,30%の人数を削ってこの図になっていますので,あと20%分を削ってみようということです.

20%分を削ると言っても,削るところが問題になります.
受験していない人たちの様子が不明なので,勝手に推測するしかないのですが,おそらくこんな感じではないかと思います.



全体的にバランスよく削りました.
理屈としては,高偏差値の中には「浪人」もいるでしょうし,高偏差値なだけに「私は大学に行く必要はない」と構えているユニークな人物もいるだろうという点.
そして,あとは全体的に諸事情(経済的理由など)あって大学受験できていない人ですね.



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(4)進学率70%が上限か?


前回の記事では,
「日本の進学率を70%にしよう」
という話題でした.
日本の大学が抱えている課題を踏まえて,今後どうすればいいのか?

しかし,日本人の3割は複雑な日本語を理解できないとすると,こういう人たちが大学教育を受けても伸び悩むだけのように思います.

私はスポーツ指導者ですが,同じことがスポーツでも言えます.
頑張って練習させても,明らかに「運動音痴」で先が無いという人はいます.
こういう人に,上級のスポーツスキルを獲得するための努力を続けさせるのは,むしろ酷です.

大学にしても,「学術的スキル」とは別のものを獲得させてあげた方がよい人というのはいるでしょう.

そうは言っても,現在の日本の大学進学率はまだ50%ほど.
実際,上記で削った20%分を増やせれば,進学率は70%になります.




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