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文科省は大学をイジメる前にやるべき事があるだろ|日本の大学の特徴を再確認しよう

地方私大が相次いで閉校している


・・というニュースです.

今回は,このニュースの解説を兼ねて「今後の日本の大学改革」の話をします.

地方私大の閉校相次ぐ 自治体が誘致、計画の甘さ浮き彫りに…進む淘汰(西日本新聞 2019.5.15)
 少子化の影響もあり学生数が確保できず、閉校に追い込まれる私立大学が全国的に後を絶たない。1980年代から2000年代にかけ、多くの自治体が地域活性化を目的に盛んに大学を誘致したが、計画の甘さが浮き彫りとなり淘汰(とうた)が進みつつある。
 来年度の学生募集停止を決めた保健医療経営大(福岡県みやま市)は当初、合併前の旧瀬高町が用地を無償譲渡し、開校する予定だった。当時の町長は660人の学生が集まると想定、学生アパート建設などで約16億円の経済効果を見込んでいたが、07年3月の合併に伴う市長選で無償譲渡に反対した候補が当選、貸与に変更した経緯がある。市議の一人は「開校前から学生が集まるか疑問だったが、その通りの結果になった」と話した。


大学数の推移ですが,2017年データでは国・公・私立あわせて780校です.
今から10年前,ちょうど私が大学教員になった頃に,現在の状況が完成しました.

文部科学省(2017年)のデータより作成


その頃から,「大学が多すぎる」「これからは大学が潰れる時代だ」などと表立って言われるようになりました.

ただ,その後はサッカーJリーグのJ1・J2チーム入替のように,年に2〜3校追加される代わりに2〜3校潰れるという感じで,ずっと横ばいです.
今回の西日本新聞のニュースには,この10年間で廃校になった大学がまとめられています.
画像元:地方私大の閉校相次ぐ 自治体が誘致、計画の甘さ浮き彫りに…進む淘汰(西日本新聞 2019.5.15)

「地方私大閉校相次ぐ」とのニュースですが,実際にこのニュースを聞いた感想はいかがでしょうか?
実のところ,全然たいしたことないと思いませんか?

実際,そうなんです.だって,まだ大学数は「減少」していないんだから.

「毎年,大学が潰れている!」
って言われると,まるで年間10校くらいのペースで潰れているのかと思いきや,実際は2〜3校.多くても5校.

この西日本新聞の記事にしたって「相次いで・・」と書いていますが,それは実のところ2年連続で西日本新聞の地元である福岡県内の大学が潰れただけです.
上の表で潰れている大学を見てもらえれば,地方・中央関係ないことが分かると思います.


しかし,この「大学潰れちゃう問題」の本質は,そういう最終結果の部分ではありません.
西日本新聞の記事を読み進めてみましょう.
文科省によると、全国の私立大582校のうち4割に当たる210校が定員割れとなっており、事業活動収支が赤字の私立大も17年度で全体の約4割を占める。同省は本年度から新たな財務指標を設け、経営難の大学を運営する学校法人の指導に当たる方針。経営状況が改善しなければ、学生募集の停止や法人解散を含めた対策を促すという。

今後は,経営難の大学はこっちから潰しにいっちゃうぞぉ,っていう話なんですね.
で,そういう対象になっている大学が結構多くて,潰れたくない大学が大騒ぎしているという状況なのです.

その結果,潰れそうな大学は非常にブラックな経営をするようになります.
で,それにつられて,すぐには潰れそうではないけど,その予備軍の大学も一緒になってブラックな経営をするようになります.

それで迷惑を被るのは,現在そこに在籍している学生と働いている教職員,そして大学選びに頭を悩ます受験生です.
私が,日本の大学改革とか高等教育行政に反対する理由はそれなんです.
徹頭徹尾,誰も得しない政策.

どうせ潰すつもりなら,計画的に順序良く潰せばいいじゃないですか.
そうしないなら,しっかり経営が安定するように補助すればいい.

なぜそういう人道的で,道徳的で,倫理的な判断すらできないのか不思議でなりません.




「日本の教育予算は少ない」について


日本の教育費が少ないという話は有名ですね.
確認のため,文部科学省が作成したOECDデータの比較を見ておきます.

まず,GDPに対する教育予算の比率です.
これは日本の悲惨な現状を示すためによく用いられるグラフでして,年によって日本以外の国はランキングの入れ替わりが結構あるのですが,日本はずっと最下位です.
教育予算のGDP比 文部科学省(2014年)




次に,それを領域別にしたものです.
左端は就学前教育(幼稚園など),中央は初等中等教育(小・中・高等学校),右端が高等教育(大学など)です.
日本の教育費は,GDP比ではいずれも下位です.



教育予算のGDP比 文部科学省(2014年)






GDP比ではなく,一人あたりにかける予算として計算したのがこちらです.
日本の教育費は,義務教育にかける予算は平均的であることが分かります.

逆に,就学前教育や,大学教員に予算が割かれていないのです.
特に,比率として非常に平均値から差が大きいのが「高等教育費」です.
平均が37.6%であるのに対し,日本は26.2%.
つまり,11ポイント以上の開きがあります.

教育予算のGDP比 文部科学省(2014年)


これで現政権がなぜ「幼保無償化」と「大学無償化」を急いで打ち出したのか,ご理解できたでしょう.

意味不明の教育費充実政策のゴリ押しは,こういったデータから導き出したものです.

ただ,事の本質を全く理解せずに実施しているので,完全に逆効果になるのですけど.
哀れですね.




「大学の方針」の国際比較


さて,事の本質の話ですが.
それは,その国がどういう教育をしたいのか? という「方針」です.
諸外国のやり方がすべて良いと言ってるわけではありません.
各国,それぞれ自分たちの現状に不満や理想があるでしょう.

それを踏まえた上で,日本はどういう「教育」をするか舵切りしなければいけません.

上述してきたデータで注目してほしいものがあります.
特徴的な4つのパターンです.
(1)北欧諸国
(2)アメリカ,オーストラリア,韓国
(3)ドイツ
(4)イタリア



まず,(1)北欧諸国.
GDP比,1人当たりの予算,いずれも高額を割いています.
これらの国々は,教育によって国づくりをしようという方針が明確に見えます.

さらに,北欧は進学率も日本以上に高いことが知られています.
ちなみに,日本は55%で,これは世界的には高い方ではありません.OECD平均は62%です.
それに対し,フィンランドは68%,デンマークは65%,ノルウェーとスウェーデンは76%です.
大学進学率の国際比較(文部科学省 2012年)

日本では「大学全入時代」という言葉が皮肉のように使われていますが,多くの国々では「高等教育を義務教育のように扱う」という方針があります.
このあたりの事情は,教育業界に疎い人は知っておいたほうがいい.



次に,(2)アメリカ,オーストラリア,韓国.
GDPの比率に占める教育予算は同程度ですが,一人あたりの予算になると,日本と同様に少ないパターンです.

ただ,アメリカの場合は「高等教育に割く絶対的な予算」が大きいことが分かります.
比率はOECD平均ですが,もともとのGDPが大きい国です.
あと,アメリカの場合は日本以上に学費が高いです.
1人当たりの教育費が少ないことが,それを表しています.

アメリカ,オーストラリア,韓国は,進学率も日本より遥かに高いです.
アメリカは74%,オーストラリアは95%,韓国は71%が大学進学しています.
大学進学率の国際比較(文部科学省 2012年)

こうした国では,「国が教育インフラを用意しておき,それを個人がお金を出して利用する」という方針があります.
ですので,学生たちも「より良い就職」「より良いポスト」「アカデミックなスキル」を身につけるために,非常に貪欲になります.
進学率が高くなるのも当然ですし,高校から上がるだけでなく,社会人学生も多いのです.

その一方で,日本では「ブランド」や「偏差値」が優先的な価値になります.
そこにお金を払っている感覚なので,大学で授業を受けたり研究することよりも,いかに「大学生活を過ごすか」が第一になるのは仕方がありません.



(3)ドイツ
ドイツと,後述するイタリアの進学率は似ていて,日本並かそれ以下(42%〜49%)です.
ドイツの進学率は42%で低め.
しかしその分,学生1人当たりにかける高等教育の予算が大きくなります.

さらに,学位(学士,修士,博士)に対する優遇が強い社会です.
特に,博士号を持っている人材は高待遇になります.
なんせ,自己紹介で「Dr」を名乗ることが出来るくらいです.
例えば,どっかの道を歩いていて警察官に職質された時,「Dr. ◯◯です」と名乗ると,その警察官の態度が変わるそうです.

高等教育を受けた者,その卒業者・修了者はエリートである,という方針が明確です.



(4)イタリア
こちらも進学率は日本並の49%.
しかも,教育予算も日本並みで少ないんです.

ただ,イタリアの予算では,日本と比べて人件費が安いんです.
日本は比較的高い方で,平均すると約1000万円ですが,イタリアは准教授相当で約500万円(上下幅は大きいですが)です.
しかも,イタリアは伝統的に専任教員が少なく,助手や研究員.非常勤講師をたくさん雇って運営しています.
諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査(文部科学省2011年)
つまり,イタリアは予算を人件費ではなく,研究活動や教育に回すという方針なのです.


ですから,ドイツとイタリアは(ヨーロッパ全体の傾向ではあるが)学費が安いんです.
日本の年間の学費は,国公立は約50万円,私立は約100万円ですが,
ドイツは基本・無料.イタリアは15万円〜20万円です.

さらに言えば,ヨーロッパの大学,特にドイツ系統は「偏差値」や「ブランド志向」がありません.
どの大学を出たか? よりも,どのような成績を収めたか? どの研究分野の専門家なのか? が問われる風土があります.
(この参考資料はありませんが,ドイツ系の大学を卒業したネイティブの方から聞きました)


さて,翻って日本はどうでしょうか?
国際比較すると,日本の大学は以下のような特徴を持っています.

(1)教育予算は,GDP比も1人当たりも世界最低レベル
(2)予算の使い道は,人件費が高くて学生の教育・研究に回す比率が小さい
(3)進学率は国際的に見て低いが,入学難易度・卒業難易度ともに低い
(4)何を勉強・研究したかよりも,どの大学に入学したかが問われる

どう贔屓目に見ても,ちょっと何がしたいのか分からない国ですね.
唯一の特徴としては,最後の「ブランド」による「社会的な泊付け」くらいでしょうか.


つまり,日本・文部科学省としては,この「泊付け」の仕事を大学に頑張らせたい方針なわけでしょ?
これだと,もともとブランドと財力のある大学は有利になり,そうでない大学はもっと不利になります.
そんなものに付き合ってらんねぇよ.っていうのが教育現場です.

「世界大学ランキング」という(私としては)気に入らないランキング制度があるんですけど.
でも,はっきり言って,こんな状態で「世界大学ランキング」の上位を目指すことって難しいですよ.
だって,日本の大学では,どのような卒業生になれるのか不明なんですから.




まずは方針を定める


大学改革するにしても,せめて,上記の4パターンのうちのどれかをモデルにしてくれないですかね.
それが,日本の大学改革の方針になるのです.

日本の大学改革って,諸外国の「良いとこ」をつまみ食いして,一番中途半端な面倒くさい状態になっているんだと思います.
何事もトレードオフ.
何もかもが得をするオプションなどありません.
全部乗せにすることができるのは,博多ラーメンくらいのものです.
そんな福岡では,2年連続で大学が潰れたわけですし.


現状,最良のパターンは,ドイツ・イタリア系ではないでしょうか.
私は日本人の感覚や,社会的な受け入れ体制からしても,ドイツ型が良いように思います.
これは,この6〜7年ずっとブログでも言ってきてることですけどね.

ただ,ドイツ型の問題点は,日本人が「ブランド志向」や「偏差値」から離れられるか怪しいという点です.
とりあえずどっかの大学に入学し,そこで普通に頑張れば,東大も京大も,そのあたりにある無名の私立大学でも「同レベルの卒業生」として扱われる.
という,非常にハードルの高いものが待っています.


一方,イタリア型であれば,やることは簡単です.
教員の給料をガッツリ減らせばOK.

今のように教職員の「人数」を減らして対応するのではなく,安い給料でたくさんの人を雇い,一人あたりの仕事量や授業数を減らす方式です.
助手や研究員が増えるので,研究活動もスムーズになります.

私個人としてはこれがベストなんですけど,
「高い給料とステータスがあるから,私は大学教員になったのだ」
とか言う人が,物凄い勢いで反対しそうです.
こういうサラリーマン教員を突破できればの話になります.


北欧型はもちろん,アメリカ・オーストラリア型も難しいでしょう.
なんせ,国際リニアコライダーの不採択に代表されるように,現状,予算をバンバン削っている最中ですから.

強いて言うなら,日本の現状で一番実現させやすいのは,韓国型です.
韓国と同程度の水準になるためには,とにかく進学率を高めることです.
日本も韓国のように進学率を高めれば,潰れなくて済む大学があるでしょう.

実際,おそらく現政権が目指しているのもこの方式だと思われます.
アメリカやオーストラリアとは違い,日本と韓国の場合は安い予算で多数の学生をさばく方式です.
この方式が,どこにも角が立たずに大学教育を存続させることができるので.

何のことはない,同じ地域の同じ人種なんですから,やっぱり考えることや社会も似てくるのだと思います.
右翼・保守系の人たちは気に入らないかもしれませんが,当面,日本の教育界が目指すべきモデルは韓国です.




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