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焼け石に水の「大学修学支援法」|この程度では大学崩壊を止められない

大学修学支援法が成立


先般,「大学等における修学の支援に関する法律(大学修学支援法)」が参院本会議で可決し,成立しました.

大学修学支援法が成立 2020年度から授業料減免制度(教育新聞 2019年5月10日)
低所得者世帯の学生を中心に、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校の授業料などを無償化する「大学等における修学の支援に関する法律」(大学修学支援法)が5月10日、参院本会議で可決、成立した。消費税率の10%引き上げ分を財源に、2020年度から高等教育の授業料減免制度の新設や給付型奨学金の拡充を実施する。
新設される授業料減免制度は、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に、授業料や入学金を減免する。

これに関連し,先日の記事では,
「大学は,2025年頃から受験者および学生数が激減する未来が待っている」
ということを解説し,その対策として学費を大幅に値下げするための作戦を立てておかなければいけないという話をしました.
大学関係者が知っておくべき,2025年頃に受験者数が激減する未来予想図


どうして2025年頃なのかというと,「2025年」,つまりあと5〜6年ほどすると,18歳以下の子供を持つ親の多くが,ロストジェネレーション世代.就職氷河期世代になるからです.


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生活が苦しいロストジェネレーション世代は我が子を大学に通わせるか?


この世代は格差問題を抱えています.それに,「賃金増加」が見込めない世帯,もともと世帯収入の少ないところが多いのです.
それに,彼らは「大学進学による旨味を経験していない世代」です.

早大卒43歳でも“ヒラ社員”のまま…「7割が中年ヒラ」世代の衝撃(SPA! 2018.11.27)
この“失われた20年”は経済のマイナス成長もあった時代です。デフレで売り上げが低迷するため、組織は大きくならない。役職のポストは横ばいなので、そこに大量に採用されたヤル気のないバブル世代が居座り続けるんです。さらに内部留保が積み上がる一方で、ヒラ社員の賃金は下がるか停滞。

これにより,学費を払える世帯が減ります.
たとえ払える見込みがあったとしても,払った学費分のリターンがあるかどうか熟慮する世代です.
つまり,自分の子供に大学進学を躊躇しやすくなる世代なのです.


その皮膚感覚を加速させるデータも次々出てきています.

例えば,
大学関係者が知っておくべき,2025年頃に受験者数が激減する未来予想図
でもご紹介したように,「大学を卒業」しても,「高卒社員」との生涯賃金の差は,同一企業に勤め続けた場合は,

大企業で4千万円,
中小企業で1千万円

しか差がありません.

「ユースフル労働統計2018」p.317 より



4千万円はまだしも,1千万円というのは,4年間の学費や生活費でトントンになってしまう額です.

もっと言えば,上述したニュースのように,最近は給料や昇進が「年功序列制度」ではなくなってきています.
つまり,現時点で推測されている「大卒と高卒の生涯賃金の差」は,さらに縮まることが予想されます.

こうした背景から,今後は「4年間大学へ通う代わりに,キャリアアップのための4年間にする」という実利主義的な高校生や家庭が増えるでしょう.
新卒一括採用の間隙を縫って,コネクションづくりと転職によって,キャリア形成や生き甲斐づくりをする人たちが増えるということです.


さらに言えば,昨今は「キャリアアップ志向を嫌う」ことや,「高所得層になることを意図的に回避する」といった風潮が隆盛してきました.
これは,ヒッピー・ブームなどではありません.

実際,最近はこんな書籍が売れるようになっています.
   

えらいてんちょう 著『しょぼい起業で生きていく』の内容ついては,私は9割くらい同意です.

というか,私自身,この生き方を去年から準備しており,来年からそちらにシフトする予定ですので.
先日お話したように,私は大学教員をやめることにしました.
大学教員やめます
大学をやめて,次どうするのか? その1


以前からこの手の本は少しずつ出ていましたし,私も数年前から関心を寄せていましたが,ここ最近になって急激に勢いが出てきました.
内田樹さんの本などは,大学生の頃から15年以上ずっと読んできましたが,その予想通りの日本社会になっていることを実感しています.


サラリーマンや公務員こそが理想の生き方だと考えている人が多数派の現在は,まだこの状況を飲み込めていない人ばかりだと思います.
そんな人はきっとこんなことを言います.
「しょぼい起業や,のんびり気楽な仕事を選べば,たしかにストレス無く生きていけるだろう.しかし,それで結婚はどうする? 子育てはどうする? 子供を大学に通わせようと思ったら学費が・・・」

はい,そうですね.
そこまで口にしたところで気づくかと思います.
もう,「子供を大学に通わせる」ことが目標・理想ではなくなっているのですよ.

たまたま,この50年ほどが「優秀な人が大学にも通って社会に出ていた時代」なだけであり,それ以前は「大学を出ていなくても社会に優秀な人がいた時代」が長かったんです.
そういう時代に戻りつつある,と考えるとイメージしやすいと思います.

人間社会というのは,それまでは微々たる変化であっても,ある特異点を過ぎると一気にガラガラと変化を遂げるものです.
それが,「2025年」くらいではないか? というのが私の予想です.


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「大学修学支援法」は焼け石に水


今回の法律は,その時代の変化による「大学受難」を軽減するものです.
そのために,ほんのちょっと貢献するでしょう.
しかし,ほぼ焼け石に水だと思います.

まず,対象者が「原則として住民税非課税世帯」ということで,大学を志す世帯としてはハードルが高いです.

もともと非課税世帯の割合は少ないですし,そういう家庭で育った子供が,大学や専門学校を目指すことも少なくなります.
たいてい,高校を卒業したら就職するでしょう.
さらに,上述したように「大学に通わずキャリアアップする」を計画的に選択する高校生や世帯が増えてきます.

ですので,生き残りに必死な大学としては,この「原則として住民非課税世帯」を切り崩すことが当面の課題となります.
もっと幅広く学費の減免を受けられる制度にするべきです.


嫌になったので大学現場を離れる私ですが,大学教員・職員のなかには,知人・友人・教え子がたくさんいます.
なので,大学という教育機関が崩壊することは避けたいところです.

しかし,現在の「大学修学支援法」では,大学はひたすら文部科学省の言いなりになる機関になるだけで終わります.

こういう話だけは,なぜか日本共産党と意見が一致する私です.
この法律に,日本共産党の吉良議員が反対を表明しています.
その趣旨が,ほぼ私が過去のブログ記事で言ってきたことと一緒なのが面白い.

大学修学支援法 吉良氏が反対|無償化とはいえない(しんぶん赤旗 2019.5.11)

その「しんぶん赤旗」の記事には,吉良氏の主張の要旨もリンクされています.
私の意見と完全に一致するので,そこから引用しておきます.
(太字化の部分は私が強調しました)

大学等修学支援法に対する吉良議員の反対討論・参院本会議(しんぶん赤旗 2019.5.11)
 反対する第1の理由は、修学支援の財源に消費税10%への増税分を充てると法案で明記をしていることです。
 この財源を前提にするならば、その支援対象者を拡大するとき、またさらなる消費税増税が押し付けられる懸念が生まれます。経済的理由により修学が困難な低所得者世帯の学生を支援するとしながら、低所得世帯ほど負担の重い消費税を財源とすることは許されません。何よりも、消費税は、支援の対象となる学生にも、対象とならない学生にも重い負担となってしまいます。
 見かけ倒しの高等教育無償化を口実に、消費税増税という重い負担を国民に押し付けることはやめるべきです。
 本法案に反対する第2の理由は、支援対象とする個人、大学、それぞれに厳しい要件を設けることで、学生の教育の機会均等を阻むからです。
 本来、修学支援とは、それぞれの学生が、みずから選んだ大学でお金の心配なく学ぶことができるよう支援することです。それなのに、本法案では、支援対象とする大学等に対し、機関要件を設け、政府の方針に従わない大学等を選別し、支援対象から排除しています。
 さらに、学生個人に対する成績要件も問題です。本法案では、進学後の学生の成績等の状況に応じて、警告を出し、支給を打ち切ることもできるとしています。
 こうして対象となる大学等を狭め、学生個人にもハードルを課すことで、学生の大学選択の自由を奪い、進学機会を狭めてしまうような要件はつけるべきではありません。
 安倍政権が本法案について「高等教育無償化」と説明していることも問題です。文部科学大臣は、質疑の中で、本法案により学費は下がらないと公言したうえ、法文にも「無償化」という表現を用いていないと認めました。これを「無償化」と説明すべきではありません。
 学生や若者への支援をするならば、将来の重い負担となってしまうローン型の奨学金をせめて無利子のみにすることが必要です。
 国民の教育費負担をこれ以上増やさない。真の高等教育無償化をめざし、高等教育予算の抜本的な拡充こそ必要です。
こんなにも良い事言ってるのに,どうして日本共産党は日本共産党なのでしょう.残念でなりません.
余談ですが,調べてみたら,この吉良議員って私と同郷(高知)でした.


そもそも,消費増税10%を断行しようとしている時点で,大学教育を支援する気が無いことは明らかです.
経済政策としても明らかに誤りです.


ところで,いい年をした知り合いの大学教員がこんなことを言っていました.
「消費増税10%は大変だけど,それによって大学無償化の恩恵があるなら,私たちみたいなFラン大学にとっては嬉しい話だ」

大学教員がこんな認識なのです.
絶望的.

だから,私はこの記事や別記事で述べてきた「受験生が激減する未来予想」をお話しました.

そしたら,その先生,
「君たちの世代は大変だね」
だとさ.

2025年.
この人たちは定年退職しています.
だからホイホイと大学無償化に騙されます.
否,本質が見えたところで,騙されているとは思わないのでしょう.

潰れかけの会社や工場で「最後の御奉公」みたいな気分になって,教育現場を破壊しているだけです.



これからの大学教育を考える参考になります.