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大学関係者が知っておくべき,2025年頃に受験者数が激減する未来予想図

事実上の,
大学教員をやめて,次どうするのか? その1
大学教員をやめて,次どうするのか? その2
の続きです.

前回までは,大学教育を「諦めない」つもりで書いてきました.
しかし,私はこのたび「諦める」ことにした人間ですので,その点について話をしたいと思います.

一部の大学を除き,大学教育はガチでオワコン,ということと,
このままだと大学の受験者がマジでいなくなる,ということについてです.

まず,これからの若者にとって,「大学」に通う価値がどれだけ低いのか解説したYouTubeの動画を紹介します.
岡田斗司夫氏がネット番組内で語っている「大学論」「就活論」です.

この人の略歴をWikipediaから引用しておきます.
岡田 斗司夫(おかだ としお、1958年7月1日 - )は、日本のプロデューサー、評論家、文筆家、実業家、企画者、講演者。 通称オタキング。株式会社オタキング代表取締役、株式会社クラウドシティ代表取締役。 FREEex設立者。
株式会社ガイナックス元代表取締役社長(初代)、東京大学教養学部非常勤講師、大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科客員教授などを歴任した。
4分半ほどの動画ですので,一度ご覧になってみてください.
細かいところや条件付きで異論はありますが,私は岡田氏の主張に概ね同意します.



YouTubeには,他にも岡田氏の大学教育に関する考え方を収録したものがあり,それも拝見させていただきましたが,その多くが私も同じような見解でした.

岡田氏の話をまとめれば,以下のようになります.
(1)一部の大学を除き,大学は就職を有利にしない
(2)大学に行かなくても就職できるのだから,学費が割に合わない
(3)自分にどのような適性があるのか分からないのだから,まずは仕事をすることが大事.やってみて性に合う仕事を続ければいい.


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大学を卒業しないと就けない職業があります.
例えば学校教諭や弁護士,医師,その他大卒が応募条件の仕事です.

そういう仕事にどうしても就きたいというのであれば,大学に行く理由はあるでしょう.
ですが,企業に就職したいというのであれば,大学に行くメリットはほとんどありません.

先程の岡田氏の「大学は就活に不要」という話を踏まえて,さらに追い打ちをかける現象が大学界に襲来するというお話をしたいと思います.

前回の記事で,今後あと5〜6年ほどすると,
「労働力不足に苦しむ企業は,大卒ではなく高卒でも採用するようになる」
「高卒で採用されるようになったら,高校生は割に合わない大学を選ばなくなる」
という将来像をお話しました.
それについて,もっとデータを出しながら説明ます.


それは何かと言うと,
「大卒は高卒よりも生涯賃金で大きく差がつく」という話がトンデモ理論であることがバレる
というもの.

この話はたぶん,あと2〜3年くらいで高校生・保護者に周知されます.
大学関係者の皆様は覚悟しておいてください.


まず,一般的に言われている「大卒・高卒の生涯賃金の差」はこちらです.
労働政策研究所・研究機構の「ユースフル労働統計2018」がそのデータを算出していますので,そこから引用します.

分かりやすく,学歴による差が大きい男性のデータをお示しします.

「ユースフル労働統計2018」p.316 より
大卒は約3億3千万円,
高卒は約2億5千万円であることが分かります.

この生涯賃金の差をみせて,
「高卒と大卒の生涯賃金には,8千万円の差がある」
という主張がされます.

しかし,これは実際のところザックリ過ぎる統計です.

実は,この大卒と高卒の生涯賃金の差は,企業規模によって大きく影響します.
端的に言えば,大企業ほど差が大きく,中小企業になると差はなくなります.


「ユースフル労働統計2018」p.316 より


構成員数が1000人以上の大規模企業では,
大卒は3億8千万円,
高卒は3億円であり,
その差はやっぱり8千万円ですが・・・.

中規模の企業では,
大卒は3億円,
高卒は2億5千万円であり,
その差は5千万円まで縮みます.

さらに小規模企業では,
大卒は2億5千万円,
高卒は2億2千万円まで縮小するのです.


つまり,生涯賃金というのは学歴もさることながら,就職先がどこなのか? に大きく影響するのです.
実際,高卒や短大卒であっても大規模企業に勤めれば,中小規模の企業に就職した大卒と同程度かそれ以上の賃金を貰えることになります.


さらに言えば,このデータは,
「現在の各年齢の賃金から算出した,年齢上昇に応じて賃金が上昇する期待・予想」のデータであり,もっと言えば,「会社が倒産する」ことを想定していません.

年功序列の給与体系からドンドン離れているというニュースしか聞かないのに,現時点でのデータ通りに給与が上がるとはとても思えません.
そうなると,大卒・高卒の賃金の差が小さくなると考えるのが普通です.


会社の平均寿命(倒産するまでの年数)もデータとして出ています.
時代によって上下があるものの,1980年代には30年と言われていましたが,現在は23.5年くらいで安定しているようです.
倒産企業の平均寿命「23年半」、3年ぶりに短くなったのはなぜ?(日刊工業新聞社 2018.2.23)
これは逆に言えば,現在の会社員は,「23年」を勤務期間と考えておかなければいけないのです.



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極めつけのデータはこちら.
もし勤め続けた会社が「倒産しなかった」場合,割が良いのは高卒社員です.
同じ会社に勤め続けた場合の生涯賃金も算出されています.
「ユースフル労働統計2018」p.317 より

男性の平均値でみると,
大卒は2億9千万円,
高卒は2億5千万円となり,
その差は4千万円しかありません.

企業規模別では,大規模企業では,
大卒3億2千万円,
高卒2億8千万円となり,
その差は4千万円ですが,

中規模企業では,
大卒2億5千万円,
高卒2億4千万円となり
その差が1千万円まで縮まります.
小規模企業でも同様です.


ところで,根本的なこととして大事なものが抜けています.
大学の学費です.
大学にかかった費用を入れると,その差はもっと縮まります.

ベネッセの調査によると,大学在学中にかかる費用は諸々含めて,
国立大学:214万円
私立大学(文系):366万円
私立大学(理系):504万円

さらにこれに,受験費用や通学費,教科書,特別な授業(学外実習や選択授業)にかかる費用などがプラスされます.
下宿学生なら,家賃や生活費も別途必要です.
そうなると,
国立大学:約400万円〜550万円
私立(文系):550万円〜700万円
私立(理系):700万円〜850万円
くらいが相場となります.

したがって,私立の文系大学を卒業した場合だと,約600万円ビハインドからスタートすることになるのです.
下宿生であれば約1千万円にはなります.

ですから,その人が大規模企業以外の仕事についた場合,「大学卒業」という学歴による賃金の優位性はほぼ無くなります.


もちろん,こんな話をしていれば反論もあるでしょう.
「大学で勉強する価値とは,高い給料をもらうためのものではない」
というものです.

というか,私としてはこのブログで再三再四それを言い続けています.
大学は就職のために行くところではありません.
金儲けのスキルを身につけられるわけでもないし,
むしろ,そんなものとは無縁の世界を垣間見ることが「大学」の価値なのだと.

だからこそ,大学は受難の時代において「学術研究」の充実を図らなければならないのです.
そうでなかったら,大学としての存在価値は消えます.


しかしながら,世の中の人,皆が皆同じようには考えません.
「大学は生活を楽にするために行くのだ」
と考えている人にとって,こうした現代社会の賃金データはデリケートです.

年功序列が消え,大卒と高卒の賃金差が薄れ,高校生の親が就職氷河期世代になってきた時,大学を見る目は非常にシビアなものになってきます.

そのうち,上記のような「大学に行くメリットってあるの?」という理屈がマスコミや教育系メディアで広く周知されるようになるでしょう.
そうなった時,大学ができる営業努力には何があるでしょうか.


最後に,大学関係者が今のうちからやっておいた方が良い営業努力とロビー活動を紹介します.

(1)現在の経営水準を保ちたい場合
国と文部科学省に,頭蓋骨カチ割れるくらいの土下座をして,学費を大幅に低下させてください.

1年あたり国公立で20万円,私立で30万円くらいまで下げるべきです.
そうでなければ,大学に行こうと思う高校生や世帯は激減します.


(2)毒薬を飲んででも生き残りたい場合
外国人移民を大量受け入れしましょう.
現在,高校の教育困難校がそれでヤバいことになっています.

ですが,外国人移民をより良い労働者にするためとかなんとか言って,移民1人の受け入れで◯万円といった補助金が出る仕組みを作ってください.

そうすれば,労働者人口も増えるので,高卒日本人の需要を低下させることができ,結果として,大学の就職予備校としての存在価値も保てます.


(3)教育系大学と研究系大学とで分ける
これは以前からずっと提言されていたことですが,私は反対でした.
でも,背に腹は代えられないというのであれば,少しくらいの延命にはなります.

結局のところ研究系大学(いわゆる大学)だけが生き残りますが,大学設置基準上の話として教育系大学というカテゴリを作ることで,経営費用をとにかく大幅に削って生き残るのです.

図書館,メディアセンター,研究支援といった,現在の大学でも経費がかさむ部署を捨てます.理系であっても,実験室も切り捨てます.

非常勤講師も雇わず,ほとんどの授業を内部の教員でまかなえば,一人あたり週20コマくらいで回せるはずです.
もちろん教員は研究活動禁止です.


(4)ダウンサイジング
そのまんまです.
定員を減らし,学部学科を減らし,教職員を減らします.
本気でやるなら今のうちから準備しましょう.
最も安全な対策ですが,最も困難です.

とにかく反対する人が多数でます.
なんせ,リストラだから.
誰もがクビ切られたくないですよね.

ただし,これをやる際は注意しましょう.
現時点で,最も偏差値が高くて倍率も高い「人気の学部学科」を安易に残そうとしては危険です.
なぜなら,周囲の大学も同じことを考えるかもしれないからです.
ダウンサイジングによって,日の目を見る領域というのもあります.
が,このあたりは経営者の先見の明次第.


細かく書いていくと際限なくなってきそうなので,また別の機会に記事にします.


後日,根本的な改革案「新・大学改革論」を書きました.
小手先だけの延命措置ではなく,大学は将来的に以下のような改革が必要になるはずです.
新・大学改革論|これからの時代に授業は不要


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