2018年9月3日月曜日

大阪府警察の皆さん,お疲れ様です

先日から世間を騒がせている大阪府富田林署の脱走事件.
ネットではなかなかの勢いで大阪府警察が叩かれまくっているので,ちょっとくらい擁護の声をかけてあげようかと思い筆を執っております.

実は私,大阪府警察には少し御縁がありまして.
過去記事にもしていますので,詳細はそちらをどうぞ.
警察をお世話する
警察のトレーニング

それらの記事では,「某地域の警察学校」ということで伏せていましたが,つまりここが大阪府警察学校のことでした.2008年のことです.
別に悪い事してたわけじゃないし,極秘活動じゃないし,隠しておいた方がいいことでもありませんので,この際,明かしておきます.

私達の研究室に依頼に来た方曰く,「大阪府では今年から警察への要望が厳しくなって,いろいろと改革や活動強化をしなければいけなくなった」ということでした.
その一環として,警察学校としては訓練プログラムの改善に着手しようと.そのために私達のところに依頼に来たということだったんです.
ちなみに,依頼に来たその方は,うちの先生とは高校自体の先輩後輩の関係でした.世間って狭いですね.

察しの良い方はもうお気づきかと思いますが.
そうです,2008年と言えば,例の橋下府知事による大阪府改革が始まった時期なんです.
この時期,大阪府・橋本府知事は府警に「アレやれコレやれ,でも予算出さない」という,結構けったいな要求をしています.
「とにかく現場の人間が努力せよ」
それが指示内容だったんです.

そんなわけで,数年前にもこんな事件が起きていました.
大阪府警、犯罪8万件を計上せず「ワースト返上」とウソ 橋下大阪市長が「おわび」(ハフポスト 2014.8.1)
大阪府警の全65署が、過去5年間の街頭犯罪などの認知件数計約8万1000件を計上せず、過少報告していた。府警が7月30日に発表した。かつて大阪府知事として「街頭犯罪ワースト1返上」を掲げていた橋下徹大阪市長は31日、定例会見で「当時の府のトップとして府民におわびしないといけない」と陳謝した。
(中略)
過少報告が始まったのは2008年。この年に府知事に就任した橋下氏がワースト1返上に言及したため、府警全体で街頭犯罪抑止が最重要課題になった。
(中略)
橋下市長は31日の会見で、「僕自身がプレッシャーをかけた。あれぐらい言わないと府警は動かない」と述べる一方で「警察が府民をだますのはあってはならず、組織管理をしてもらいたい」と注文を付けた。
画して,努力じゃ達成できない目標だから,現実の方を捻じ曲げてしまえと.そういう事態になったわけですね.
これは大阪府警察が悪いのは当然のこととして,それを統括している知事も現実的な要求をするべきです.

もともと,大阪府が全国比で検挙率がワーストだったのは,発生する犯罪に人員が追いついていなかった可能性もあります.
ヤクザ体質のオッサン,人情深い住民,過激なオカンの群れ.
そうした異質な地域で発生する犯罪に,とりあえず努力で対応せよというのは無茶ブリが過ぎます.
ワースト改善を掲げるなら,一緒に人員増や予算増をつけるのが筋ってものです.というか,まずは人員や予算の充実からスタートするのが常識でしょう.叱責やプレッシャーで組織が改善するもんなら,世の中こんなに大変じゃないよ.

さてその後,大阪府警察の人員や予算が改善されているかというと,実はそうではないようです.
慢性的な人員・予算不足に陥っているんです.
大阪府警を悩ます「ある事情」…最下位レベル「給与」落ち込む「応募」必死の人材確保(産経新聞 2015.6.9)
路上強盗やひったくりなどの街頭犯罪が全国ワーストで、猫の手も借りたいほど忙しいとされる大阪府警が人材確保に躍起になっている。バブル経済崩壊後の数年間は「買い手市場」だったが、景気回復で過去の話となり、橋下徹大阪府知事(現大阪市長)の財政再建策で、給料水準も警察の中で最下位レベルを推移し、府警の警察官を志す若者が減っているためだ。
(中略)
「決して給料だけで仕事しているわけではない。だが、生活もある。優秀な人材が他府県警に流れたのではないか」。ある府警幹部の率直な感想だ。
大幅な給料カットは26年3月まで続いた。26年度の平均給料月額は全国8位に浮上したが、6年間も低迷した給料水準の影響か、17年度に1万4012人いた採用応募者は20年度に7331人と半減。競争倍率も17年度の8・1倍から5・7倍に落ち込んだ。
まあ,一つ言えることは,橋下元府知事は,大阪を犯罪者の街にしたかったようです.
予算と人員を削って,高い目標を掲げる.明らかに公務員を舐めています.民間企業の論理は公務には通用しません.

例えば,一時流行ったドラッカーとか読んで調子に乗ったバカほど,公的機関に民間企業の論理を入れたがる.
過去記事にもしましたが,ドラッカー本人が「公的機関は民間企業とは違う」と述べているのに.

さらに言えば,大阪府は警察だけでなく,教育でも同じことをしています.
リンクさせたいニュース元がネット上で見つからなかったのですが,さまざまなブログ等に引用されて残っているので,興味のある方は検索してみてください.
「大阪の教員採用が悲惨なことになっている」というのは,教育界では有名な話で,先日も和田先生とこの話題をしたところでもあります.
学校教育対談(5回目)←記事中にその話はでてこないですけどね.
大阪の教員採用試験は倍率がどんどん下がっているし,もっとあからさまに問題なのは,合格しても辞退する人が多いんですよ.
よほどの人じゃないと,大阪府で教員をしたがらないってことです.

ネット上でもよく目にする,「公務員は給料カットして努力しろ」っていう意見,なんでまかり通るんでしょうかね.
どう考えても無理筋でしょう? 少し落ち着いて考えれば,公務員の給料をカットしてプレッシャーをかけたところで,事態は悪化するだけです.
どこの世界に,給料下げられた上に文句聞かされて公務を頑張る奴がいるのか.
だからドラッカーも「公的機関に対し,企業のマネジメントは通用しない」と言っているわけですけど,そのあたりの論理とメカニズムを理解できるのは,やっぱり一定以上の知能が必要なのかもしれません.
そして悲しいことに,一定以上の知能が必要なだけに,多分それは少数派になってしまう.

でも,人間は数学教育によって「かけ算・わり算」とか「一次方程式」なんかを誰でも解けるようになるし,それは少なくとも日本人の一般常識になっています.
けどこれは,その人の知能が高まったから「解ける」「できる」ようになったわけではありませんよね.
教えられたからできるようになったのです.教えられなかったら,ずっと知らないままです.

これと同様に,「給料下げられた上に文句聞かされながら,しかもその文句言ってくる奴のために頑張ろうとする奴なんざいねぇよ」という理屈を,一般常識レベルにまでしっかり浸透させることができれば,今より少しは公的機関の改善政策はマシになるのかもしれません.

話を大阪府警察の件に戻します.
今回,たしかに大阪府警察が悪いのは当然なんですけど,こうした事態を改善するためには,もうちょっと警察の仕事がしやすくなる環境づくりから取り掛かるのが実際的だと私は考えます.