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危ない大学におけるバスの想ひ出

過去記事でも何度か登場したことのある,(危ない)大学経営の切り札である「バス」.
危ない大学においては,この「バス」は重要なキーワードと考えられています.

今回はこの「バス」について,“その経験” がある大学教員のインタビューをお届けしたいと思います.

「大学(教員)とバス」について,過去記事をご覧になりたい方は以下のリンク先から振り返ることができます.
「教職員用」危ない大学とはこういうところだ
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続・細かすぎて伝わらない大学HPオモシロ「最近のニュース」選手権

では,危ない大学の教員にとって「バス」がどのようなものなのか,その生々しい実態をどうぞ.

 

 

私:今回のインタビュアー
X:大学教員・X氏

私:今日はインタビューにお応え頂きありがとうございます.X先生は現在の勤務校では「バス」の業務をされていないということですが,前任校は「バス」の業務があったそうですね.早速ですが,そのときのお話しを聞かせてください.

X:バスに必要な免許にはいわゆる大型免許と中型免許というのがあります.大型免許はいわゆる路線バスサイズのものをさします.このサイズのバスを運転するには大型免許が必要なんです.中型免許は主にマイクロバス等(29人以下だったかな?)が運転可能な免許です.これは一昔前の普通免許で運転できるんですけどね.
大学によっては教員採用にあたって,もしくは任期更新のためにこの「大型免許の取得」が条件(脅迫めいたもの)になるんです.博士の学位よりも優先されます.

私:危ない大学における教員は,博士の学位よりも大型免許の方が重要ということですか?

X:そうです.今となっては興味深い “想ひ出” ですが,よくよく考えてみると背筋が凍る話ですね.ですが,経営難の大学としては大学教員らしい人材が採れれば,あとはバスの運転をさせてバス運用費用を浮かせる戦術に出ることが多いと思います.
ちなみに,免許を取るのは自費ですよ.

私:やっぱりバスの運用はお金がかかりますからね.教員にやらせれば一石二鳥ということですね.日本のテレビ局が不況になってから,女子アナをタレント扱いし始めたことと一緒ですかね.

X:まさにそういうことだと思いますよ.特に長距離運転なんかはツラい想ひ出がたくさんあります.

私:そうは言っても,バスの運用・運転を担当していて良かったことはありましたか?

X:普通車でも安全に気を使うようになる.というところでしょうか.
とにかくデカイので,こすったりしないように気をつけないと行けません.でも気をつける作業をコツコツとやっていくと,ある種の合理的な考え方というか感覚を身につけることができます.
普通車の運転では狭い道や離合では何となくの感覚で運転を行うことが多いと思いますが,バスの場合は,ここを無事に通過するにはこのくらいゆっくりとしたスピートで,まずこのハンドルさばきを行わなければならないという具合になります.
これは逆に言うと,ここの部分が通れば絶対にその後もうまく運転できるといいう感覚が養えるのです.空間的な取捨選択と,ゆっくりとした時間の確保ができるということですね.
ボディーがでかい分,視野が広くとれることもこの術を身につけることができる要因の1つでしょう.具体的には左折の場合だと左後輪が抜ければ大丈夫,とか,右折の場合だと左前と右後輪に気をつけるとか.ケースによって異なりますがそんな感じです.
ちなみに,この内輪差ですけど,バスは内輪差がでかいので,ロータリーのようなところを転回する時が典型なのですが,運転席からだと横にスライドしている感覚になります.これが何とも不思議な感覚でしたね.かなり個人的ですけど.

私:なるほど,かなり実際に役立つものですね.それ以外には?

X:普通車にはない「一手間」に優越感を感じるようになります.
大型バスは普通車と違って,まず自動扉を開けなければなりません.その開け方なのですが,たいていはバンパーの奥にレバーがついておりまして,そこを操作すると開くようになっています.
空気圧で作動しますので,何かの間違いで空気圧が低下しているとしっかりした開閉ができないことがあるので注意です.エンジンスタートも単純にキーを差し込んでひねるというわけではなく,その前に諸々のスイッチを入れないとスタートしないのです.
このような普通車よりも一手間かかる操作性は面倒な点もありますが,なぜか「オレは知っているぜ」という感覚にもなるのです.不思議ですね.
ちなみにマイクロバスで乗客用扉をあける場合,運転席の右上にあるバーを押さないと開閉できません.さらに言うと,マイクロバスの乗客扉の下のロックを外せば,運転席の右上のバーが無効となり,普通車の開け閉めと同じような状態になります.
これが原因で数年前に中国道だったか山陽道だったかで小学生が道路上に放り出されたという事故が起こりましたね.気をつけたいものです.

私:専門外のところも専門的に知っている,というところに優越感があるのですね.世間からすれば,まさか大学教員がバスのことを詳しく知ってはいないだろう,と思われているでしょうからね.だからこそ,そこをアピールしたくなってしまうのでしょう.例えば,最近の大学教員の中には経営スキルとか事務処理能力をシタリ顔でアピールする人がいますが,あのイタさ加減と似ているんですかね.

X:今となっては私もそう思います.大学の価値や意義とは全くベクトルが違いますよね.
それに,こういう無意味な専門性に優越感を持つようになると,それが大学ホームページとかパンフレットにも現れるようになります.
ズバリ,新車納入とか外装・カラー変更なんかを「最近のニュース」みたいなコーナーでアピールしちゃうようになるんですよ.
でも,あの気持ちは分からなくはないですね.本人たちは,至って身近で重要,且つ,自慢話であることに違いはないんです.

私:バスの運転業務をしていて悪かった点などはありますか?

X:悪い点ではないですが,マイクロと違って大型の場合は非常に疲れます.大型バスは普通車やマイクロとは運転後の疲労感がまるで違うんです.特に精神的な疲労ですかね.それくらいエンジンが動いている間は注意を張り巡らせているということなのでしょう.

私:他には?

X:世間の認識とは逆に,学生からは「運転できて当然」と思われる,というところです.
たいてい,強化クラブの教員(のみならず福祉系の先生も若干持っていましたが)は,皆バスを運転できるし,学生もそういう認識ですので学生というのは全く違和感を持っていません.当然そういうものだと思っています.
これは高校時代の監督さんも同様に運転していたというケースが多いからだと思われますが,こちらとしては何ともやるせない.
それに,こちらとしても「実はこれは異常なのだ」とも叫べないのです.
あと,それに付随して学生たちも前述の「一手間」を割と知っていたりします.少なくとも強化クラブに所属する下級生は,だいたい扉の開け方を知っています.

私:「先生」なんだから,なんでも知っているんでしょ.みたいな雰囲気が学生間に漂うんですよね.そしてまた大学(組織)としても,こういう絶妙な雰囲気を利用して,「教員は学生のために,なんでもできなきゃダメだ」みたいな空気が流れ出しますよね.そしてまたさらなる非常識業務が増えていく,その繰り返し.

X:そうなってきたら,その大学は先が見えてきたと言って良いでしょう.
大学教員のことを「学者」や「研究者」ではなく,「センセー」だと見做しているということです.もはや「先生」ですらない.そういうことです.

私:バスの運転をしていて,危険な事などは無かったですか?

X:強風の日は橋の上で風に煽られます.あれは物凄くビビリます.特に瀬戸大橋と鳴門大橋がヤバい.

私:やっぱり普通車よりも車体が大きいからですか?

X:はい.ですけど,台風の中を運転して学生を送り届けたこともあるんですが,その時は逆になんとも言えない高揚感がありました.達成感とも違うんですよ.
なんというか・・,そうですねぇ.さっき言ったように,バスって車体が大きいでしょ.その車体の大きさが,ある種の力強さの象徴,父性的な自信というか,そんな感情を生み出すんです.「強風を物ともしない,学生たちを護る鋼の城」,その主が自分だ,という感じでしょうか.

私:では最後に,バスの運転で気をつけていたことなどはありますか?もしこれからバスの運転業務をすることになる大学教員にアドバイスなどがありましたらお願いします.

X:バスの性能にもよりますが,上り坂に注意したほうがいいでしょう.
パワーのないバスは高速道路の上り坂は途中で失速してしまいます.そうすると50キロくらいでのろのろと登らないと行けない羽目になるので,かなり前方から加速して一気に駆け上がります.これができるとかなり楽な運転ができますね.
あと,「初台交差点」です.新宿付近に初台という交差点があります.免許取りたての時に,左車線から合流して300メートル位の間に右折車線へ入らなければならないというタスクを成功させました.5車線またぎくらいやってやりましたが泣きそうでした.

私:業務上のアドバイスなどはありますか?

X:基本的なことですけど,バスの運用業務において事故やトラブルを起こした際の責任がどこにいくか,という点は非常に重要です.
教員にバスの運転をさせるような危ない大学ですから,何かあったら,おそらくは教員に責任をなすりつけてくるはずです.
どうすれば責任を軽くすることができるか,その比率を小さくするには,といった対策を常日頃から想定しておく必要はあるでしょう.そうじゃないと,どこまでも蹂躙されます.

私:X先生,今日はありがとうございました.


 
 

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