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大学入学共通テストが混乱しているのは,ちゃんと大学教員から意見を聞いてないからだ

大学不要時代の断末魔


大学入試改革のニュースが賑わうここ最近.
数年前から注目されていた「大学入学共通テスト」のトラブル・問題がここに来て噴出しています.

新しく改革される大学入学共通テスト(以降,新テスト)の実施は,2020年度(2021年1月予定)からです.
あれよあれよという間に,もう1年になってしまいました.


ここ最近のニュースでは,荻生田文部科学大臣の「身の丈発言」に湧いているところです.
大学入学共通テスト 英語試験延期 身の丈発言、火消し優先 官邸、文科省押し切る(毎日新聞 2019.11.2)

経産大臣,法務大臣と立て続けに辞任していましたので,てっきり文科大臣も辞めているのかと勘違いしそうなほど.


「身の丈発言」で槍玉に上がったのは,「英語」のテストでしたが,そもそも,今回の大学入試改革は,その改革思想全てが問題だったのです.

要するに,「大学入試」を利用してビジネス・利権作りしたい人たちの思惑が渦巻く中から誕生した,誠に残念なムーブメントと言わざるを得ません.


もっと端的に言えば,この「大学入試改革」に限らず,現政府はなにかと「現場で働いている人」とか「専門の研究者」の意見を全く無視し,その代わりに「有識者」と称される素人,もとい,政治的意図をもったロビイストの意見を尊重したがります.

これが絶望的にヤバい.

今回のような「入試改革」であれば,現場で働いていて,しかも統計学的な作業をする研究者でもある私達にとっては,当初からどう考えてもダメダメな改革でした.
ところが,そういう我々の常識的な意見が反映されているフシが全くなく,現在に至りました.


荻生田発言以降,新テストが抱える問題について活発にニュースで解説されるようになっていますが,より本質的な部分だけに絞って整理して考えてみます.



英語の民間業者利用について


お金がかかるとか,
受験できない地域が出るとか,
対応に追われる民間業者がかわいそうだとか,
そんな分かりやすくも些末な話で騒がれている英語のテストですが,そんなことよりも本質的な問題を抱えています.

まず,最も基本的な指摘から.
ご案内の通り,民間業者やテスト方法が1つではありません.
異なるテストを受けさせ,その結果から点数を換算しようというのが新テストの方式です.

これをCEFR(外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠:Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)に照らし合わせて「共通の点数」を算出することにしています.
ヨーロッパ言語共通参照枠(Wikipedia)

文科省が出しているCEFRを元にした対照表がこちら↓





ところが,このCEFRで算出される点数は,日本人に馴染みのある「入試・テスト」や偏差値に換算される点数とは意味が異なるため,今回の新テストに採用するのはふさわしくないと批判されています.


そもそも,英語の民間業者利用が叫ばれるようになったきっかけは,
「諸外国の大学入試で採用されているのだから,これを日本でもやろう」
というものでした.

しかも,何度もテストを受けることができて,そのうちの最も良い成績を提出すればOKという方式がスタイリッシュに映ったのかもしれません.

愚かですね.

諸外国がTOEICやTOEFL,TAPEなどを入試に使っているのは,それで「総合的な成績」にして学生を順序付けたいからではありません.

その大学で勉強できる語学力があるかどうかを判別するために利用しています.

根本的なところで,日本の「共通一次」「センター試験」のようなテストで算出したい点数や成績とは,目的も思想も違っているわけですよ.


もし日本でも「英語は民間業者利用」を本気でやりたいのであれば,
「本学に願書を出せるのは,英検準1級以上の者に限る」
とか,
「英文学科への入学を許可できるのは,CEFRでC1レベルが条件」
といった感じにすればいい.
っていうか,それが本来の「入学試験」だと思うし.

ここを勘違いして入試改革を進めてきたとしか思えません.


これは後出しジャンケンではありません.
我々はずっと以前から,上記のことを叫び続けていました.
でも,外野は誰も耳を貸さず,無邪気に,
「みんなでTOEICやろうぜ」
と言って聞かなかったのです.





記述式問題はマジでいらない


誰だよ,記述式問題をやろうって言ったの.

え? 大学教員の肩書を持つ人にも提案している人がいたって?

たしかに,浅はかな考えしか持っていないのに,入試事案に口を出そうとする教員はいるものです.
ですが,きちんと冷静に多くの大学教員から意見を聞いてもらえれば,記述式問題を次のセンター試験(つまり,新テスト)に入れようなんてことを言う人は,極少数,っていうか,いないことが分かるはずです.


「そのうち,センター試験に記述式問題が出るんだってさ」
という噂は昔からあって,そのたびに,
「いくらなんでも,そんなバカみたいなこと,するわけないよぉ」
と笑っていました.
いろいろ議論した後に,どうせ却下されるだろうと思っていたのです.

しかし,もう笑えません.


本当に記述式問題が出るという話になった3年前くらいからは,
「いったい,どうやって採点するのか?」
という話題で持ちきりです.


で,最近のニュースで騒がれているのも,その採点結果の不安定さと,採点システムの脆弱さが主な話題です.
実際,莫大な量のテスト結果を,莫大な人員を使って採点することで,莫大な数の採点ミスが出ることが想定されています.

もはやこれは,想定の範囲内なのか,想定外なのか,何を「想定」というのかゲシュタルト崩壊したくなる心境と言えます.


いえ,これについても「そもそも」の話があります.
そもそも,現在の大学は記述式問題を求めていないんですよ.

もともと,共通一次やセンター試験に対する不満として,
「画一的な回答能力しか測れていないのでは?」
とか,
「暗記重視の学習を助長しているのでは?」
といったものがありました.

「記述式問題」というのは,こうしたセンター試験への不満に対する,文部科学省なりの返答と言えるでしょう.

しかし,あまりにも時期を逸しています.


もう既に,大学に入学している学生のほとんどが,センター試験や一般入試を経ていません.
平均値の話をすれば,大学生の約50%が一般入試(つまり,学力テスト)以外の方式で入学しているのです.

私立大学によっては,センター試験を経ている学生がゼロの学部学科もたくさんあります.


もっと言えば,大学独自に課している入試では,ほとんどの大学で「記述式問題」を採用しています.
記述式問題がセンター試験に馴染まないことは承知のことですから,それを各大学の入試で独自に行っているんです.

もちろん,この採点には苦労するのですが,それは大学内部での話ですから,全国一律で行なうセンター試験や今回のような新テストとは根本的に違います.


さらに言えば,昨今の大学では,
「一般入試の学生は優秀で,推薦で入ってきた学生は怪しい子が多い」
という定説も崩れてきています.

比較的偏差値が低くない大学(50程度以上)においては,AOや◯◯推薦,指定校推薦といった経路で入学した学生の方が,面白い進路に進んだり,在学中も頑張って勉強する傾向にあるんです.
これは厳密な調査ができるものではないので皮膚感覚のようなものですけど,同様の感想を持っている教員の人は結構います.



ちゃんと現場の大学教員や高校教員にヒアリングしたのか?


「もう既に何年も前から動いている既定路線だ」
とか,
「総理や大臣の肝煎りで始めているから結論ありき」
という言い訳もあるのでしょう.

ですが,大学入試にまつわる動きは固定されているものではありません.
社会変動や経済の影響を多分に受けるものです.


今回の大学入試改革は,その点で明らかに失策です.

大学の「入試」そのものに不要論すら出始めているこの時代に,これを食い扶持や天下り先にしようと,露骨に企むからこうなる.

そうでなくとも,せめて教育現場にいる教員の意見を聴くべきでした.
現在の日本政府はここが本当にいい加減です.

今回の大学入試改革は手遅れですが,今後は気をつけてもらいたいですね.


別角度で「入試改革」を論じたのがこちら.
大学改革の宿悪|大学入試改革となって溢れ出しました


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