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古代四国人・補足(国産み神話を深読みする)

以下で展開してきたことの補足記事です.
鳥無き島の蝙蝠たち(1)古代四国人
鳥無き島の蝙蝠たち(14)古代四国人2
鳥無き島の蝙蝠たち(15)月読尊(ツクヨミ)
波多国・七星剣が置かれた国

前回は魏志倭人伝から読み解く邪馬台国の位置を「九州」ではないかと分析しました.
古代四国人・補足(邪馬台国の位置)

今回は,過去記事で述べてきた古事記・日本書紀にある神話を下敷きとする「日本国の成り立ち」について,より詳細に読み解いてみます.
その中でも,「国産み神話」から古代日本を解釈しようというものです.

「神話から日本の成り立ちがわかるのか?」という疑問もあるかと思います.
もちろん正確には分かりません.
ですが,こんな面白い本があります.

松本直樹 著『神話で読みとく古代日本』

松本氏いわく,
「その『神話』が全くの創作であれば神話としての説得力を持つことはできず,広く民衆に語り継がれている古の事実の欠片を集めたものが『神話』になるはず」
というのです.

完全に正確な記述ではないにせよ,ある趣旨をもって語り継がれる「物語」というのは,それに類似した出来事が過去になければ受け入れられない.つまり,古事記や日本書紀で述べられている神話には,そのモデルとなった出来事が実際にあった可能性が非常に強いということです.

そもそも古事記と日本書紀は,編纂した当時の為政者である権力者や天皇が「日本を統治する正統性」を示すために作られたものです.彼らにとって都合の良いものでなければなりません.
しかしその一方で,権力者や天皇にとって都合のいい物語ばかりが並べられると,日本各地で語り継がれている伝説や神話との整合性がとれなくなってしまい,「私の知ってる物語と違う」という不満を民衆や地方豪族に持たせることになります.なので,あまり大きな改竄もできないわけで.

つまり,編纂者は「日本各地に伝わる『神話』を満遍なく使い,それでいて我々がこの国を統治するに相応しい経緯をもってこの場に立っている,ということを宣言する物語を作成する」ということに挑んだことになります.プロジェクトXみたいですね.

どうしてそんなことをしなければいけないのかというと,国家統合のためです.
考えてみれば当たり前ですが,当時の感覚では一般庶民や地方の豪族は「我々は皆同じ日本人」という意識なんぞあるわけがありません.
その地その地を独自に治めているものです.大きな山や川を挟めば,向こう側は「外国」.現代でも山や川を越えると方言が異なります.
近世までは役人や一部の職業以外は交流なんてほとんどなかったものと考えられます.

なので,古事記として編纂しようとする日本神話にしても,日本各地の人々が「あっ,その部分なら私もお爺ちゃんから聞いたことがある.へぇ〜,あの話ってこういうことだったんだぁ」と違和感なく受け入れられるものにする必要があります.
逆に言えば,その「神話」を違和感なく受け入れられてもらえれば,「同じ神話を共有する集団」すなわち「国民」を生み出すことができます.

特に古事記は,日本書紀と比べてもその性格が強いとされています.
何故かと言うと,日本書紀が外国語(中国語)で書かれているのに対し,古事記は日本語で書かれてるからです.つまり,日本書紀は読者が外国人であり,古事記は地方豪族を想定していると考えられるのです.

古事記と日本書紀は内容に細かい違いがあるのですが,逆に言えば「その違い」とは地方豪族を意識しているか否かの差である可能性もあります.
これについて考えるのは別の機会として,そういう存在である古事記をもとに,日本の成り立ちを解釈してみます.

まず,全体を俯瞰してみます.
古事記は,序と3つの巻から成っています.
1)序: 編纂目的の記述
2)上巻: 天地開闢 〜 天孫降臨の後,神武天皇の祖父・火遠理命のこと
3)中巻: 神武東征と神武天皇の即位 〜 応神天皇のこと
4)下巻: 仁徳天皇のこと 〜 推古天皇のこと
私はこの3巻構成それ自体に意味があるという説をとります.

編纂目的から逆算して,私なりに「古事記」を解剖すると,以下のようになります.
(きちんと研究されている学者の方々には申し訳ないですが)
1)序: そのまま
2)上巻: 日本が統合を始めるまでの騒乱の経緯と諸勢力について「神様」を使って暗示
3)中巻: 近畿地方を首都とするにあたり権力争いをした各地の王族や豪族を,すべて「天皇」とした
4)下巻: 実際に「天皇」という存在だった人達の話
特にこの上巻では,近畿に都を建てた「この日本」建国に至る諸勢力の経緯を「神話」として語っていると考えられます.
ですから,日本各地で語り継がれている「オラが町の伝承」との相違が大きくならないようにしつつ,古事記編纂当時の状況を肯定的に,かつ,正統性と権威性を高める文章にしなければなりません.

さて今回は,上巻における「イザナギとイザナミによる国産み」に焦点をあてます.

「国産み神話」には政治的な意味が付されていると思われます.
神話とは言え,国家プロジェクトとして編纂している政治文書を,なんの脈略もなく書いているとは考えにくいですから.
国産み(wikipedia)

まずは「国産み」によって産み出された島と順序を確認しておきましょう.以下の通りです.
1.淡路島
2.四国
3.隠岐島
4.九州
5.壱岐島
6.対馬
7.佐渡島
8.本州

興味深いことに,国産み神話によって生まれた島々や順序は,古事記の後に書かれた「日本書紀」だと以下のようになります.
1.淡路島
2.本州
3.四国
4.九州
5.隠岐島・佐渡島
6.東北・東日本(越州)
7.周防大島(大州)
8.吉備児島

あれ? なんか違う.
こうして「違う」ということ自体,その順序や登場の有無に何かしらの意味がある可能性は高い.

おそらく,ここで「国産み」されている島々(そのあとに出てくる小さな島々も含め)は,日本国を作るにあたって重要な位置づけとなっている地方だと考えられます.

詳細は省いて概要だけ.
いつも変わらぬ1番目の「淡路」は近畿勢,もしくは「今に続く天皇」,そんな彼らの出身地ではないでしょうか.
その後,「今に続く日本」を作るにあたって重要な役回りをした地域が羅列されてるものと思われます.

「四国」は外交と貿易ルートである瀬戸内海の覇者だった可能性があります.瀬戸内海を制する者が古代日本を制した可能性は高いんです.
「隠岐島」も有力者の出身地だったのかもしれません.縄文時代から本土との交易があったことが分かっています.
「九州」は言わずもがな.大陸との玄関口.もちろん邪馬台国があった有力地.
「壱岐島」「対馬」もそうです.外交や進軍ルートであるこの地は,日本建国にあって重要な意味を持っていたはずです.
「佐渡島」については今はちょっと保留.日本書紀では隠岐島と同列に扱われているので,同じく有力者の出身地なのか,何かしらの聖地扱いか?

古事記では最後に「本州」が登場するのですが,これは「最後に本州・近畿に都を置いたよね」という国内向けの共通認識を示しているものと考えられます.
もちろん,近畿より東の地である北陸・関東・東日本の平定が最後にあったことを意味するとも言えます.

その意味で,日本書紀の外国人用「国産み神話」では,淡路のあとに本州がきます.そして,北陸・関東・東日本を意味する「越州」が登場.逆に,対馬と壱岐島が消えている.
これは,海外向けに「我々が今いるのは本州であり,我々が統治しているのは東方にも広いんだぞ」という主張を示すためと考えられます.
外国人(中国・朝鮮)にとっては対馬と壱岐島は「日本」の玄関口であり,九州の一部であることが明瞭なので,わざわざ明記しなかった.そんなところかと.

さらに,日本書紀では瀬戸内海の要所,「吉備児島」「周防大島」が登場します.
この理由は明らかです.近畿から大陸への外交ルートにおいて,必ず通ることになる港町がここです.きっと,大陸からの使節団もここを利用したはずで,そんな彼らが分かりやすい場所を「国産み神話」として格上げしたものと考えられます.

この国産み神話には,もっと強い政治的意味があると考えられます.
イザナギとイザナミが産んだ国のなかに,明確に「神様」が宿っていることが言及されている島々があります.

四国と九州です.
他の地域はガン無視なのに,なんでこの2島には神様を宿らせているのか?
たんなる「おとぎ話」や「神話」とは片付けられないはずです.繰り返しますが,これは古事記.当時の国家プロジェクトですから.

ちなみに,四国(伊予之二名島)の神々と,その考えられる意味はこちら.
愛媛・伊予=愛比売(エヒメ):雅な地域という意味
香川・讃岐=飯依比古(イイヨリヒコ):肥沃な地域という意味
徳島・阿波=大宜都比売(オオゲツヒメ):五穀豊穣な地域という意味
高知・土佐=建依別(タケヨリワケ):武力を持った地域という意味
九州(筑紫島)はこちら.
九州北部・筑紫=白日別(シラヒワケ):白日(神)とはアマテラスの別名
九州東部・豊国=豊日別(トヨヒワケ):トヨヒワケとは,サルタヒコの別名
九州西部・肥国=建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクジヒネワケ):日(ヒ)を連発しているので,太陽や火山を崇めていたという意味か?
九州南部・熊襲=建日別(タケヒワケ):武力を持った地域という意味.のちの薩人マシーンである
もうこれらをもって,その意味するところは「お察し」できるはずです.

日本統合に先立つ時代において,四国と九州は屈指の大勢力だった.

四国は瀬戸内海を,九州は日本海を,それぞれ日本の交通網をおさえていた勢力であり,国家統合とは,この2勢力の合意と承認なしには成し得なかったと考えられます.

そしてこの2勢力の影響力は,都を近畿に置いた当時においても伝説や神話として知れ渡っており,これを「国産み神話」から外すことはできなかったものと思われます.
ゆえに,この2勢力の御機嫌取りは必須.

その神々の名前を深読みすれば,以下のように捉えることもできます.
四国勢は,農業を中心とした地域だった.
九州勢は,太陽神を崇める地域だった.
そう言えば,農業って「カレンダー」が発明されて可能になった技術だよなぁ.
たしか,日本の太陽神って「アマテラス」だよなぁ.

ということで,この解釈はその後の神話「三貴神」へと続きます.
つまり,太陽神を崇める九州勢は「アマテラス」を意味しており,農業を司る四国勢は「ツクヨミ」を意味するのではないか?

これについてはまた次回.

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