2017年5月11日木曜日

古代四国人・補足(国譲りと天孫降臨から空想する)

今回はいよいよ『古事記』上巻,最後のパートです.
編纂者である当時の朝廷と天皇にとって都合の良い話として,国譲りと天孫降臨のエピソードから空想してみたいと思います.

この一連の記事では繰り返しになりますが,ここから初めて読み始めたという人のために,「どうして古事記から古代日本の裏事情が読み解けるのか?」を説明しておきます.

「神話」とは,それに類似した出来事が過去になければ受け入れられない.つまり,古事記や日本書紀で述べられている神話には,そのモデルとなった出来事が実際にあった可能性が非常に強いということです.
詳しくはこちらをどうぞ↓

松本直樹 著『神話で読みとく古代日本』



『古事記』とは,編纂当時の朝廷と権力者,および天皇にとって都合のいい歴史的解釈を全国的に普及しつつも,日本各地で伝承されている伝説・神話との整合性をとりながら,しかも各地域とその豪族のご機嫌取りをするという,極めて高度な政治目的を達成するために作成されていると考えられます.

では,今回の「国譲り」と「天孫降臨」という日本神話は,そもそもどのような民間伝承を改変させたものなのでしょうか?

国譲りは,葦原中津国平定の物語として語られます.
その発端は高天原におわす最高神「アマテラス」による,かなり理不尽なちょっかいでした.
「葦原中津国(日本)を統治するのは,我々天津神である」とかなんとか言い出して,手下共を大国主が統治している葦原中津国に差し向けたのです.

詳細は過去記事を参照してほしいのですが,日本神話においては,
アマテラス=九州勢
スサノオ=近畿勢
大国主命=出雲勢
というメタファーが成り立っていると考えられます.

前回記事で扱った「大国主の国作り」とは,大国主(出雲勢)がスサノオ(近畿勢)を押さえ込んで出雲・近畿地方を平定するが,最終的には近畿地方に都を移した物語として解釈できることを紹介しました.
そう考えると,今回のアマテラスの行動は「九州勢が出雲・近畿連合が治めている奈良(大和)に侵攻した」と捉えることができます.

この経過を分かりやすくするために,全体像を整理しておくと以下のようなものです.
1)出雲勢が近畿勢と同盟を結び,さらには主導権を奪い取る(大国主がスサノオから剣と弓,琴,そしてスセリヒメを奪い取るエピソード)
2)近畿勢が出雲勢を相手にクーデター? 主導権を奪還する(これが大国主の国作りのクライマックス)
3)出雲の動乱・凋落をみた九州勢は,日本海経由による出雲・近畿地方への侵攻を計画(瀬戸内海は四国・中国勢が跋扈していて不可能)
4)これを察知した近畿勢は,当時の首都・出雲を捨て,大和(奈良)に遷都(これが大国主の国作りのラストシーン)
5)九州勢は当初,出雲・近畿を威圧・籠絡しようとしていたが,効果がなかったため軍事力による解決を図る(これがタケミカヅチによる葦原中津国の平定)
6)日本海経由で近畿を攻める九州勢に対し,道中にあたる出雲勢は降伏.自らの国の安全を保証してもらうことで同盟関係を築く(これが大国主の国譲りと,出雲大社の由来)
図示すると以下の通り.

ここでポイントなのは,「古事記」が描く日本神話とは,編纂当時の朝廷と権力者,および天皇にとって都合のいい歴史的解釈を全国的に普及することですので,前回記事で扱った「大国主の国作り」のラストに巧妙な仕掛けが施されています.
出雲勢を暗喩する大国主は,国作りの最後に大物主大神からの神勅を受けて,強引に近畿地方である奈良に都を移しています.おそらくはこの時点で,近畿勢が国家運営の主導権を出雲勢から奪還したものと考えられます.

しかし,その後に九州勢が出雲と近畿地方に攻め上がってきて,絶体絶命のピンチになります.
ところが,「国譲りの物語において対象になっているのは大国主(出雲勢)」なのです.近畿勢ではありません.しかも,大国主は「出雲に戻って」国を譲ったのです.
つまり,国譲りといっても譲った国は「出雲」なんですね.大和ではないのです.

ここから考えられるのは,九州勢はたしかに日本海側から出雲を経由して大和に向かって攻め立てました.
当初はもたついたものの,圧倒的軍事力を行使して出雲・近畿連合を蹴散らします.
この物語の最後から察するに,九州勢は出雲を陥落させたことは容易に察することができます.出雲の首長を人質にするなどして,九州勢の領地にしたのかもしれませんね.

さらに言えば,古事記によるとタケミカヅチは北陸地域で戦いをしているようで,従わない者を信濃国(長野県)まで追撃していたりします.
これは,九州勢が日本海側から敦賀,琵琶湖をつかって攻め込んできたことを裏付けているのではないでしょうか.

そもそも九州勢が出雲と近畿を攻めた理由としては,おそらくスサノオ伝説(アマテラスとスサノオの誓約,高天原での悪行,ヤマタノオロチ退治)により説明できると思います.
細かい解釈は過去記事を読んでもらうとして,つまりは鉄器輸入や朝鮮半島との外交,製鉄技術の独占といったことが引き金になっているものと考えられます.
関門海峡・瀬戸内海ルートを封鎖した九州勢でしたが,近畿勢が日本海ルートを使って輸入・外交を進めることにブチ切れた結果なのだと思われます.

出雲を陥落させて大和に迫るイケイケドンドンの九州勢,ですが・・・.
さあ,ここからがドラマチックな展開になります.
と言っても,軍事的には極めて普通な展開です.
「天孫降臨」へと話を移しましょう.

九州勢(おそらくは邪馬台国)が出雲・近畿に侵攻しているという噂は,その他の地域にも広がったはずです.そして,その話を聞いて最も恐れつつ,最も喜んだ国があったはずです.
邪馬台国に敵対していた国,「狗奴国」.
つまり「四国・伊予」です.

四国としては,もし九州勢が出雲・近畿を陥落させたら,九州地方と近畿地方の両方から挟み撃ちにされます.もちろんこれは広島(安芸)や岡山(吉備)にも同じことが言えますが,もしかすると邪馬台国はそれが狙いだったのかもしれません.

だから四国はこの機会を逃さなかった.
九州勢が出雲に兵力を割いている間に,一気に九州へと侵攻した可能性があります.
それが天孫降臨のエピソードです.

どうして天孫降臨が「四国による九州侵攻」になるのか?

天孫降臨の物語を確認しておきましょう.
アマテラスは葦原中津国の平定をみて,自分たちのうちの誰かを統治のために差し向けることにしました.
そこで選ばれたのが「邇邇芸(ニニギ)」です.
さあ,いざ葦原中津国へ!と思いきや,その道中に怪しい国津神「サルタヒコ」が立っています.
「あんた何者?」と聞いたところ,サルタヒコは葦原中津国まで邇邇芸を先導してくれるとのこと.
邇邇芸は天津神オールスターズと共にサルタヒコに導かれ,「高千穂峰」へと天降りたったのです.
実は,この天孫降臨のエピソードと同じルートを,日本で再現できるところがあります.
以下をご覧ください.

四国西部に細長く伸びる「佐多岬半島」は,その地名の由来が「サルタヒコ」です.
さらに,九州東部を司る神様の名前を「豊日別」といいますが,この豊日別,またの名「サルタヒコ」といいます.

まさに,四国勢(邇邇芸)は佐多岬半島・豊日別(サルタヒコ)に導かれて高千穂峰に降り立ったわけです.

おそらくは,四国が九州侵攻をするにあたって,九州東部の国々と通じていたのではないでしょうか.
その国とは,宇佐や別府周辺,あとは魏志倭人伝に登場する「投馬国(宮崎県・日向)」なのかもしれません.

もっと言えば,あの佐多岬半島にしても,とても象徴的な地形です.特別なもの(ビクトリーロード)を感じるのも頷けるのではないでしょうか.

なぜ高千穂峰に向かったのか? という物語については謎がありますが,邇邇芸はこの地にいたコノハナサクヤヒメと結婚し,あの初代天皇「神武」の祖父にあたる子供をもうけます.
こうした話は,九州東部・南部との同盟を意味しているのではないでしょうか.
そして,ここから「神武東征」へとつながっていくのです.

なんにせよ出雲・近畿攻めの真っ最中だった九州北部(邪馬台国や奴国)としては驚愕の展開.
出雲は陥落させたものの,とてもじゃないけど近畿攻めなんてしてる場合じゃない.

一方の近畿勢からすれば天からの助け.まさに神降臨
詳細は次回に譲りますが,そんな経緯があるので「国産み神話」において四国は淡路に続く2番目に誕生した国なのではないでしょうか.

さらに言えば,実は九州東部は邪馬台国(九州北部地域)の「アキレス腱」であるとされています.
なかでも九州北部と東部の堺にある大分県日田市は,歴史的にも九州の要衝とされていました.
日田を制する者は九州を制する,というのは歴史研究家の関裕二氏が唱える説です.ここは東側からは攻められやすいのに,西側からの攻撃には守りやすい土地なのだそうです.

四国勢も意図的か偶然かは別にして,九州東部そして日田市周辺を制圧したのかもしれません.
日田まで来たら,ほら.邪馬台国は目の前です.

さらに九州勢(邪馬台国)にとって問題なのは,この機会に周辺国から反乱が起こるのではないかということ.
魏志倭人伝によれば,邪馬台国は不思議な妖術をもった女王(巫女)によって国々の動乱を抑えている地域なのです.

九州東部を奪われた九州勢,さあどうする!
ということで,この話は『古事記』中巻,邇邇芸の子孫である神武天皇による「神武東征」へと続きます.

ところで,アマテラスが差し向けたはずの邇邇芸が,どうしてアマテラスの土地である九州に攻め込むのか? という点が疑問に思われるかもしれませんが,それも古事記全体の趣旨から解釈ができますので,それは次回に.


その他の補足記事
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