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古代四国人・補足(三貴神を深読みする)

これまでの続きです.

前々回は,魏志倭人伝から読み解く邪馬台国の位置を「九州」ではないかと分析しました.
古代四国人・補足(邪馬台国の位置)

前回は,日本神話における国産み神話から,四国・九州を日本建国における重要な地域であることを分析しました.
古代四国人・補足(国産み神話を深読みする)

今回は,古事記・日本書紀における「三貴神」についてです.

なお,これは以下の過去記事の補足になります.
鳥無き島の蝙蝠たち(15)月読尊(ツクヨミ)

なぜ「神話」から日本の古代が読み解けるかというと,ある趣旨をもって語り継がれる「物語」というのは,それに類似した出来事が過去になければ受け入れられないからです.
松本直樹 著『神話で読みとく古代日本』によれば,「その『神話』が全くの創作であれば神話としての説得力を持つことはできず,広く民衆に語り継がれている古の事実の欠片を集めたものが『神話』になるはず」だからです.

つまり,古事記や日本書紀で述べられている神話には,そのモデルとなった出来事が実際にあった可能性が非常に強いということ.
この観点から古事記と日本書紀を分析してゆきます.

まずは「三貴神」について確認しておきましょう.
三貴神というのは,黄泉の国から帰ってきたイザナギが黄泉の汚れを落としたときに最後に生まれ落ちた三柱の神のことで,「アマテラス」「ツクヨミ」「スサノオ」を指します.
三貴子(三貴神)(wikipedia)

それぞれの支配領域や特性は一定していないようですが,主には以下のようになります.
アマテラス:イザナギの左目から生まれた女神.日本の最高神とされ,天と太陽を司る
ツクヨミ:イザナギの右目から生まれた男神.月神とされ,天と夜を司る
スサノオ:イザナギの鼻から生まれた男神.海神とされ,海原を司る
さて,この三柱の神ですが,これにもそれぞれモデルがあると考えられます.
そのモデルが,前回の続きからすれば「四国」「九州」,そして「近畿・出雲」ではないかと思われるのです.
理由を以下に示します.

古事記と日本書紀における「日本神話」が編纂された当時,日本の首都は近畿・奈良でした.
しかし,そのように日本統合が進む中においては,必ずや軍事・霊的・政治的な影響力を持った為政者や豪族が権力争いをしたはずですし,チャンスがあれば下克上を狙っている地方勢力もあったはずなんです.
それゆえに,「日本」という一つの共同体として民衆をまとめ上げるためには,各地に伝わる伝説や神話を基にしたと考えられます.

それは三貴神の神話についても例外ではなく,この三貴神が示すものは,これが書かれた当時においては「あぁ,この神様の話はきっと,あの地域のことを意味しているんだな」と察せられる物語だったと思われます.

仮にそう考えると,この三貴神の物語が示してるものは容易に解釈することができます.
つまり,
太陽神・アマテラス: 太陽神を崇めた地域とされる九州
月神・ツクヨミ: 食物の神々から成る地域とされる四国
海神・スサノオ: 中津国(出雲・近畿)に降り立った近畿
ということです.
地図上で示すとこんな感じ↓

順番に解説していきます.

まずアマテラスですが,これは前回の記事でもお示ししたように,太陽神を崇める地域である九州を擬人化(擬神化)させたものと考えられます.
さらに言えば,アマテラスは女神です.
女性がトップに君臨する国として有名なのはどこでしょう.そう,邪馬台国ですよね.
九州・邪馬台国は,国内においても卑弥呼や台与といったシャーマン(巫女)が治めていた国として伝説的な地域だったはずです.
卑弥呼は「日巫女(日見子)」のことだとも言われています.太陽を崇拝する地域が九州勢だった可能性は高い.

実際,国産み神話において九州(筑紫島)を司る神々の名前が,「白日別」「豊日別」「建日向日豊久士比泥別」「建日別」であり,しつこいくらいに太陽を意識させるものです.
さらに言えば,私が邪馬台国があったと考えている九州北部は「白日別」という神が宿っているとされていますが,日本書紀においてはアマテラスのことを「白日神」と表記しています.
これらのことから,アマテラスは太陽神を崇めるかつての大国,九州・邪馬台国を暗喩したものと考えられるのです.

次にツクヨミ.
ツクヨミは「月読尊」と表せば分かりやすいように,月を読む神様です.
月を読む.そう,カレンダーですね.
カレンダー(暦)とは「農業」,つまり安定した食料供給を人類にもたらした画期的発明です.

これを裏付けるようにツクヨミは,日本書紀においては保食神(ウケモチ)と面会した際,ウケモチが口から飯を出してきたので「汚らわしい」と怒って殺してしまう,というエピソードを持っています.
つまり,ツクヨミがこの世界に食物をもたらした存在として描かれているのです.

では,古事記において食物を司る神様はどのように示されているか.
そうです,四国の神様なのです.香川の「飯依比古」と,徳島の「大宜都比売」のことです.
このうちの大宜都比売(オオゲツヒメ)は,その後の物語においてスサノオに斬り殺されて食料をもたらしたという経緯があります.斬り殺された理由は「ツクヨミとウケモチ」の時と同じです.
このことから,「オオゲツヒメ = ウケモチ = 食物 = 四国 = ツクヨミという関係にあることが想起されます.
おそらく,四国勢は周囲に先駆けて「農業」における新技術を開拓した地域ではなかったかと思われます.

最後にスサノオですが,彼に関するエピソードは非常に多い.
このことから,スサノオが「主人公的存在」,つまり近畿勢の物語を意味するのだと私は考えています.

スサノオについて,国内向けに書かれたとされる「古事記」を確認しておきましょう.
その政治的やりとりが垣間見えるのが「アマテラスとスサノオの誓約」以降の話です.
その物語の概略は以下のようなもの.長いですが,重要なので概略だけでもご確認ください.
母(イザナミ)に会いたいと思い立ったスサノオは,姉のアマテラスに面会してから行こうという(意味不明な)理由で,まずは高天原に向かう.
対するアマテラスは,スサノオが高天原を奪いに来たと思って武装して待ち構えた.
スサノオはアマテラスの誤解を解くために「誓約」をしようと持ちかける.
※詳細は「アマテラスとスサノオの誓約(wikipedia)」を参照のこと 
その誓約によって疑いが晴れたスサノオは(なぜか)高天原に住み込み,挙句の果てに傍若無人な振る舞いをして高天原に混乱を招く.
怒ったアマテラスは天岩戸に隠れ,世界を暗闇に陥れる.
※以降の詳細は「天岩戸(wikipedia)」を参照のこと 
アマテラスを天岩戸から引きずり出すことに成功するも,神々はスサノオにブチギレて高天原から追放した.
追放されたスサノオは,腹をすかせているところをオオゲツヒメに御飯をもらって助けられる.
しかし,オオゲツヒメが口や尻の穴から御飯を出していることに結構ビビり,彼女を殺してしまう.
※詳細は「オオゲツヒメ」および「ハイヌウェレ型神話」を参照のこと 
オオゲツヒメからもらった食べ物をちゃっかり頂き,スサノオはそのまま出雲に降り立つ.
そこで出会った老夫婦に「助けてください」と言われたスサノオは,その地で暴れまわっているとされる「ヤマタノオロチ」を退治することになった.
見事,ヤマタノオロチを泥酔作戦で退治したスサノオは,その尻尾から現れた鉄剣「草薙剣」を手に入れる.
※詳細は「ヤマタノオロチ(wikipedia)」を参照のこと
最終的に,スサノオはこの出雲に住み着いた.
その子孫には,あの「大国主命(オオクニヌシ)」がいる.
ということです.
では,この一連の物語を,これまでの解釈をもとに分析していきます.

まず,アマテラスとスサノオの誓約ですが,これは九州勢(アマテラス)と近畿勢(スサノオ)による貿易・外交摩擦のことだと考えられます.
近畿勢としては,普通に考えると瀬戸内海と関門海峡を通って大陸と外交していたはずなんです.
特にこの時代(2〜4世紀頃を想定)は,武器・農耕具に必須である鉄器は,大陸からの輸入に頼っていました.
ところが,あまりにも近畿勢が大陸との貿易を盛んにするもんだから,その通商ルートの途中である九州勢としては不安になります.
つまり,「彼らが鉄器をたくさん輸入しているのは,そのうち我々に歯向かうつもりだからではないのか? 大陸と通じて,我々を挟み撃ちにするのではないのか?」と考えるのは必定.

だから九州勢としては近畿勢と会談をもった.そこにはその他の地域,例えば四国や中国地方とも協議して「話し合い」をした可能性があります.
もちろん近畿勢としては「いえいえ,そんなつもりはありません.武器は東国(北陸・東海)を相手に使うためのもの.ほとんどの鉄器は農耕具ですし」などと言い訳したはずです.
そして,この時はそれで許しを得られたものと思います.
これが「アマテラスとスサノオの誓約」です.

ところがその後,近畿勢はそこでの約束や宣誓を守らなかったのかもしれません.
当然,九州勢は怒って関門海峡を封鎖.それに呼応して中国・四国地方も瀬戸内海を封鎖した可能性もある.特に瀬戸内海は,中世まで海賊が蔓延る危険地帯で,ここを通るにはこの地域の国々の協力がなければ不可能でした.
これが「天岩戸」の物語になったものと考えられます.

外交・輸入ルートを失った近畿勢は,周辺国に助けを求めます.
その時に助けてもらったのがオオゲツヒメである「阿波国(徳島)」なのかもしれません.場所的にも隣で近いし.
これが「オオゲツヒメ」による食料起源.

とは言え,このままではジリ貧になる近畿勢.東国からのプレッシャーもあるし,瀬戸内海ルートに代わる新たな外交・輸入ルートを確保しようということで,思いついたのが出雲地方をまわる「日本海ルート」だったのではないでしょうか.
アマテラスや八百万の神々(九州・瀬戸内)から追われたスサノオは,ゆえに「出雲に降り立つ」のです.

つまり,こういうことです↓

途中の対馬,壱岐島がどれだけ自治的だったのか不明ですが,彼らにすれば大陸との通商をする者は皆同じ「客人」だったのかもしれません.
もしかすると「山口県西側 〜 沖ノ島 〜 対馬」という経由で進んでいた可能性もある.

この一連の話が「ヤマタノオロチ退治」として描かれたのではないかと思います.
(ヤマタノオロチが何を暗喩しているのか? については様々考えられるし,ここの本筋ではないので割愛します)
近畿勢にとっては,出雲の平定(もしくは友好,同盟)は死活問題だったはずです.出雲もかつては一大勢力だったことが分かっています.

もっと言うと,ヤマタノオロチの尻尾から出てきた草薙剣は,輸入による「鉄器の入手」という意味だけでなく,「製鉄技術の獲得」を指しているとも考えられます.
実際,古代における出雲地域は製鉄に長けていたことが知られていますので.
古代出雲(wikipedia)

さらにヤマタノオロチ神話を深読みすると,近畿勢が出雲をおさえることができたのは,「農業技術を教えたから」と考えることもできます.
例の「オオゲツヒメからもらった御飯」がきっかけですね.
つまり,近畿勢は四国・阿波(オオゲツヒメ)から教えてもらった農業技術を取引材料に,出雲に対し大陸との通商ルートの共有を迫ったということです.

そう考えると,ヤマタノオロチの退治の仕方も納得がいきます.
酒でオロチを酔わせて倒す.こう言ってはなんですが,とてもじゃないけどカッコいい戦術とは言えません.
しかし,潤沢な米を必要とする「酒」を大量に用意させるという物語は,稲作の充実性を示唆しているのかもしれません.これは,近畿勢が効果的な農業技術を出雲地域に教えることで,同盟関係を築けたことを暗示しているのではないでしょうか.

次回は,「古事記」上巻の中核であり,三貴神・スサノオの子孫である大国主命(オオクニヌシ)の神話について,政治的に解釈してみます.


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